ss3

□昔の人
1ページ/11ページ

@桃





弟の花太郎が今年の春から大学生になる。彼にとっては念願の一人暮らしだが、生活するにあたっていったい何が必要かわからないという。基本的な家電は学賃マンションに付いているとして、今のところ自分で揃えたのは水とマグカップとシリアルだけという絶句もの。あたしと母が思わず登山かとツッコミをいれてしまった。

だから今日、仕事が忙しい母に代わってあたしが身の回りの物をいっしょに買い物することに夕べの食卓で決定した。まさか弟がこんな何も知らない小僧だとは思わなかった。



「なんであたしが…。」

「いいじゃん、姉さんどうせ暇だろ?」


「う……、い、言っとくけど今日はたまたま暇なんだからね!」


「はいはい、そういうことにしときましょ。OLって響きの割に寂しい私生活だよね。」


「…もうついて行ってあげない……。」


「え、ちょっと、今の訂正するから、待ってよ姉さん……!」


「じゃあランチのデザートにチョコレート天国を奢ること。」


「げぇ…それって激甘スイーツじゃん、しかも高い…。」


「そうだよ。花くんの門出を祝って奢られてあげる。」


「嫌がらせだよ……。」



「ふふん、乙女のハートを傷つけた罰です。ええと次は……っきゃ、すみませ………、」


「あ、悪…い………。」



弟と憎まれ口をききながら大通りを歩いていたらすれ違いざまに男の人と肩がぶつかってしまった。買い忘れがないか確認をするために手に持っていたナイロン袋を覗いた拍子に身体が傾いだのだ。行き交う人の多い道で、ふざけながら歩いていたのが悪かったのだ。あたしは直ぐに相手の顔も見ずに謝った。でもその相手は……。


「日……番谷君……?」


「桃………?」


二年前に別れた元彼、日番谷君………。







長い人生だものこんな偶然もありえる話……なのかな…。



 

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ