スイーツパラダイス

□ブラックマカロン
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ただいまとリビングの戸を開けると先に学校から帰っていた姉がキッチンで何やら作っていた。
鍋からは温かい湯気が立ちのぼり、その横で姉が包丁を使ってる。トントンとリズミカルな音を聞いて直ぐに、ああ今夜は父さんも母さんも遅いんだったと思い出した。
舌打ちしたいようなはしゃぎたいような、複雑な感情がどっと胸に溢れ出す。
まだ着替えもせずに制服の上にエプロンつけて、野菜を刻む度に姉の丸いお団子頭がゆれ短いスカートもエプロンのリボンもあわせてゆれる。


「おかえりシロちゃん。」


「ただいま、腹減った。」


首だけ捻って俺を見た桃に空腹を訴えたら僅かに眉毛が下がった。
カタンと包丁を置くと手を洗い、エプロンをタオル代わりに手を拭きながらこっちへ近づき俺より少しだけ低い目線から見上げてくる。縮まった距離に意識してると気取られぬよう身を引いた。


「今、夕飯の準備に取りかかったところだよ。なんかおやつでも食べて大人しく待ってて。」

「おやつってどこだよ。」


鞄をさげたまま尋ねたら、八の字眉が一転、台所の隅に置きっぱだった自分の鞄からリボンのついた袋を取り出した。そりゃあもうウキウキと。



「ジャーン!今日織姫ちゃんにもらいました!見て見て、きれいでしょ?これいっしょに食べようよ。今お茶いれるね。」


「晩飯の準備してるんじゃなかったのか?」


「休憩休憩。」


「まだ全然できてないんじゃ…。」


「休憩休憩。」


「自分が食べたいだけだろ。」


「えへ、だっておいしそうなんだもん。」


短い舌をぺろりと出して笑った桃はすごく可愛い。贔屓目無しの文句無しで桃が一番可愛いと思ってる。
実の姉が世界で一番可愛く見えるだなんて誰にも言えないから思うだけ。言ったが最後、俺は変態扱いだ。
別に事実だから否定はしないし世界中の人間に変態扱いされたって構わないが桃に避けられるのだけは辛いからこの気持ちは奥の奥へしまっておく。でも…。











袋のリボンを解いて大皿に開けられた中身は思わず目を惹くようなカラフルな色の焼き菓子達だった。虹の色が全て揃ったような菓子に桃は早速大はしゃぎで、重ならないよう一つ一つを並べ始めた。
おいしそうだねと俺の顔を覗きこんで笑う顔は子どもの頃から変わらない。太陽の光を満遍なく浴びて花開いた俺の花。




生まれた時から俺のそばには桃がいて、桃のそばには俺がいた。ずっと二人くっついて、でもそれが苦痛だなんて思わなかった。だって二人でいるのが当たり前だったから疑問さえ抱かなかった。俺達にとっちゃあ呼吸するくらい当たり前のことで、いない方が逆に不自然だった。
けれどある日俺は気づいたんだ。男と女はずっといっしょにはいられないということに。
それは当たり前のような顔をして俺達姉弟の間に割りこみ、居座った。




 
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