スイーツパラダイス

□桃のジュレ
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*日雛パロ










スイーツパラダイス、略してスイパラ。
こってり盛られた生クリーム、繊細な技術で作られた飴細工、白いケーキの上に突き刺さったハート型の板チョコは厚さ僅か0.1mmってところか。

甘党にとってここは楽園、王国、まさにパラダイスなのだろう。
俺は大口あけてモンブランをほおばった桃に呆れた目を向けた。


「しあわせだぁ………!」


「よかったな……。」


「あれ?シロちゃんまさかまだ一個目?あたし取ってきてあげようか?」


食べ始めて二十分経過。
少し落ち着いてきた桃がやっと俺の食が進んでいないことに気がついてくれた。


「俺はこんだけで十分だ。っとに……俺が甘いの嫌いなこと知っててなんで誘うんだよ?」


「だってみんな当分行きたくないって言うんだもん。」


「お前…何回来てんだよ?」


俺が一番手じゃないことにドッシリ落胆したけどそんなこと顔には出さない。


「うーん…今月五回目かな…?」


来すぎ………!


五月はまだ月半ば、前半が終わったところなのに五回って!
こいつはもう病魔に犯されているとしか思えない。きっと桃は体も頭も砂糖に侵食されてんだ。

引きまくりな俺の態度など気にもとめず、桃はまたケーキのおかわりに席を立った。
軽くステップでも踏んでそうに浮かれた足取りを見て、あと三回はおかわりするなと予想をたてた。
ケーキにはじまりプリンにゼリー、チョコフォンデュにアイスクリーム、他にも焼き菓子やら何やらたくさん並べられてて、なるほど、甘い物大好きな桃にとって夢の国なんだろうここは。ずらりと並べられたスイーツの数々に、見ただけでげんなりした俺は熱くて苦いコーヒーに助けを求めた。
ほどなくして両手に皿を持った桃が戻ってくる。自分の席に着く前に片手に持った一枚を俺の前にコトリと置いた。


「こら、俺はもういらねえぞ。」


「せっかく来たんだからもっと食べなきゃもったいないよ。シロちゃんそれまだ一個目でしょ?」


「一個で十分なんだよ。こんな甘いやつ二個も三個も食べられるお前がどうかしてるぜ。」


「もう…、それ甘さ控えめで食べやすいから取ってきたの。一口でいいから食べてみてよ。
きっとシロちゃんの気にいるから。」


「………なにこれ?」


「桃のジュレ。」


「…………………。」




桃の……………、計算か?

なんで自分の名前が入ったブツを持ってきた?俺の反応を窺おうってのか?


着席するなりチョコケーキにフォークを突き刺した桃を無言で見つめたら、目があった彼女がにこりと優しく微笑んだ。


「シロちゃん桃好きでしょ?それだと喉ごしもいいし、どうかな、と思って。」


「…………。」



そうだな。お前が計算なんて無いよな。

少し深めの白いデザートボウルに入った砕けたゼリー。ピンクやブルーのキラキラ透け透けのジュレの奥に小さく刻んだ桃が見える。
優しく弱いバリケードを纏って、いつでも手が出せるような出せないような。甘いのかさっぱりしてるのか。
そんな曖昧で予想のたてにくいデザートを俺のためにチョイスするなんて。しかも「桃」。皮肉すぎて力がぬける。


「ね、食べてみて?」


「…わかった、食う。そのかわりここを出たら次は俺につきあってもらうからな。」


「いいよー。」


小さなスプーンで一匙掬った俺に桃は嬉しそうに笑った。


口の中に広がった桃のジュレは仄かに甘くて俺でも食えた。滑るように喉の奥へと流れていったキラキラ達の後、口の中に残ったのは桃の欠片だけ。


この後、こいつをどう食ってやろうか。

俺が喜んで食える唯一の甘い食べ物は何回目かの「おいしい」を幸せそうに叫んでいた。



 
 

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