スイーツパラダイス

□複雑なソルベ
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sssより、「スパイシーB」
*吉良→雛パロ



彼女がイタリアンレストランでバイトを始めて何ヶ月経っただろう。僕があまりにも頻繁に通うから、彼女の中での僕はイタリーな男で定着しつつある。
まさかのゴッドファーザーを気取る気はないけれど、可愛い彼女目当てとバレるよりよっぽどいいかと思ってる。



「いらっしゃいませ吉良くん。」


「やあ、また来ちゃったよ。」


「いつも来てくれて嬉しいよ。今日は何にする?」


「うーん…じゃあ、おすすめで。」


「はぁい、じゃあちょっと待っててね。」


僕からの注文を伝票に書いて、雛森くんは形ばかりに手渡してくれたメニューを下げた。



6月初めに初夏の新メニューが追加された。それが更に真夏のメニューに変わったのは1ヶ月前、先週からは早々と秋の味覚が登場した。

新メニューが出ればそれをたのんで、今じゃあこの店の料理はすっかり制覇してしまった。それくらい僕はこの店に通いつめている。
仲間を誘って来るときは一番奥の隅っこ席。一人の時は窓際の奥から二番めのテーブル。そんな定位置も雛森くんには知られるほどに。
ついでに僕の気持ちもバレてほしいようなほしくないような。複雑なソースと絡み合って、くるくる巻かれる、なんだかパスタ気分だ。




「吉良くん、はい、どうぞ。」


「え?」


美味しいランチを食べ終わり、水といっしょに氷を口に入れたとき、彼女が小さめの白いカップを僕の前に置いてくれた。


「僕…これはたのんでないけど…。」


「いつも来てくれるからサービス、って実はあたしが始めて作ってみたの。吉良くんに試食してほしくて。」


ミントの葉っぱがのせられた黄色いシャーベット。トレイを抱えた彼女がレモンソルベだよと教えてくれた。
イタリアンな店だからイタリアンジェラードじゃないの?だなんてつまらないこと今日の僕は言わない。彼女の手作りならばフランス料理店で丼出されたって美味いと言って平らげられる。


「へえ…すごいね。」


「えへ、美味しいといいんだけど…。」


少し照れながら頭をかく仕草も可愛くて、こっちが逆に照れてしまう。
溶けないうちに食べてと言われ、スプーンを持った。すぐ横から彼女が僕をじっと見ているのが分かる。
そんなに見られちゃ食べられないよと言いたかったけれど彼女からの視線を一身に浴びるなんてのもまた滅多にないこと。この幸せな時間を噛みしめながら僕は甘くてほんのり酸っぱいソルベを口にした。



「どぉかな?美味しい?」


ちょっぴり眉を下げて尋ねるのは彼女が不安な時や自信の無い時。
僕は柄にもなく親指立てて片目を瞑り、カッコつけた。


「うん、すごく美味しいよ!」


「ほんと!?やったぁ、嬉しい!」


「少しレモンが強い気もするけど女の子はこれくらいが好きなんだろうね。」


「そっかぁ、じゃあもう少し改良してみるね。」


「ああ、でもこれもすごく美味しいよ。ほんとだよ。」


偽りのない気持ちを素直に告げたら、彼女はまたもや満面の笑顔になった。
飛び上がって喜ぶ彼女を見て僕も同じくらいはしゃぎたくなる。


少しだけ、友達の中でも少しだけ僕は特別な位置につけられているんだろうか。
いつか聞いてみたいんだけど…。



そんな僕の気持ちには微塵も気づかず、彼女は奥の厨房から顔を出した銀髪シェフにガッツポーズをしていた。










二口目のソルベが少し苦い気がしたのは僕の気のせいだろうか。







 
 

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