スイーツパラダイス

□用無しパンケーキ
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日曜日の遅い朝、近くのパン屋に食パン1斤買いに出かけた。
大学も休みでバイトも昼から。
ゆっくりとした時間が夏の暑い空気の中を流れていく。特に急くこともなく俺もゆっくり歩いて帰る。








少し前、寝坊した桃が朝食のパンが無いと呟いた。だったら米と味噌汁でいいんじゃないかと俺は思ったから他のでもいいと言ったらニッコリ笑顔の彼女はじゃあパンケーキにすると宣った。

朝からおやつ?

驚いてそう問えば、彼女にとっては普通の朝食メニューらしく、ケーキもアイスもチョコレートも朝から難なく食えるという。



スイーツ好きの彼女は朝から甘い食べ物をすんなり受け入れられるかもしれないが俺にはキツい。いそいそとフライパンをセットし、バターを取り出した桃が卵に手をかける前に俺が買いに行ってくると立ち上がった。
そうして今に至る。












近所にパン屋があることなんて桃がうちへ来るようになって初めて知った。それくらい俺の生活は学校とバイトの往復しかしていない。逆に疑問なのは彼女はいつの間にこの近辺の探索をしたのだろう。

今では常連となった小さなパン屋でいつものパンを買い、ブラブラ袋を下げながら桃が待つうちへ帰る。

麦わらをかぶった子供が俺の脇をすり抜ける。どこかで蝉も鳴いている。
世間はすっかり夏で夏休みなんだと実感する瞬間だ。



今年の夏休み、俺は田舎に帰らなかった。
その理由は明白だ。









通りを渡ったところにある俺の部屋で桃が二人の洗濯物を干しているのが見えた。バサバサと分厚い俺のGパンを広げて竿に掛けている。その横に自分のデニムの短パンを干している。
あれは昨日、海に行った時に着てたやつだ。

寝坊したからてっきり今日はのんびりした日曜日になるのかと思ったけれど、元気な彼女はもうくるくると休まず動いているようだ。



簡単なまとめ髪にした桃が暑そうに息をつき、ベランダ越しに俺を見つけた。
零れる笑顔と共に目一杯手を振って俺の帰りを喜んでくれる。



たかが近所のパン屋。
たかが朝食のパン。
離れてたのは僅か15分。
なのにそんな顔が見られるなんて、やっぱり食パンにして良かった。



俄かに吹いた夏の風を胸の奥まで吸い込んで、まだまだ手を振る桃に片手を上げて返事をし、麦わらの少年にも負けない速さで俺は柄にもなく駆け出した。

なんでだろう。桃を見てると走りたくなる。

なんでだ?










































家に帰れば君がいる







 

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