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□いつでもスタンバってる
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今日、冬獅郎は牛丼屋のバイトは休みだ。けれど桃は今日も5時からシフトに組みこまれていた。だから早くても会えるのは9時過ぎになる。
夕べ眠る前、いつもの場所で待ち合わせをしようとメールをしたら期末テストが近いんだから家で勉強しなさいと返ってきた。年上ぶった甘くない返事に冗談で、だったら桃の部屋で勉強すると送ったらテストが終わるまで入れませんと、再度のつれない返事。せっかく心地よく眠れそうだったのに、ショックで今日は寝不足だ。


お前は俺の担任かよ。
なんでテストごときで会わない選択をするのかわからねぇ。だいたい部屋に入れないって言うけれど、まだ一度も入れてくれたことないくせによく言うぜ。






夏休み直前の昼休み、冬獅郎は自分の机で頭を抱えるように突っ伏した。


一個上の桃は冬獅郎の彼女だ。牛丼屋のバイト先で知り合った。


無口で愛想の無い冬獅郎に桃はいつも明るく声をかけてくれ、冬獅郎より一週間だけ先輩だと言って色々と助けてくれた。
冬獅郎より一つ年上の大学生だけど高校生にしか見えない桃はよく店の皆にからかわれていた。怒って頬を膨らませると余計に幼く見える。それを指摘されたら眉毛が下がり、今度は逆に情けない顔。くるくるとよく変わる表情豊かな桃が冬獅郎はいつの間にか気になって。知らぬ間に目が桃を追うようになっていた。


「はぁ…」


冬獅郎は机に向かって重い溜め息をついた。
本当はもっともっと会いたいのに思うように行かない。バイトの終わりに少し喋って、時々デートして。過去何人かと付き合った時もそんな感じだったからこれが普通のお付き合いなんだろうけど、物足りない。冬獅郎はあまりお喋りじゃないが会話が続かなくても桃となら気にならない。桃も大して気にしてなさそうだ。ただ一緒にいられるだけでいい…とは言わないが(それなりに煩悩は持っている)もっと二人の時間が作れたら。
冬獅郎は桃を思わない日などないくらいなのに、なぜ彼女はこうも冷静なんだろう。もし今すぐ会いたいと言われたら、きっと冬獅郎は学校なんか放ってレトリバーみたいに尻尾を振って駆けていく。
思いの大きさを表すならば桃はたぶん風船級で冬獅郎のは間違いなく元気玉級だ。圧倒的に冬獅郎のがデカい自信がある。


夕べのメールだと今日は会えない日だ。会えないと思うとなんだか胸が苦しい気がする。この間、桃に握られた人差し指が熱い気がする。






「放課後カラオケ行こうって言ってんだけど冬獅郎も行かねーか?」
「………。」


突っ伏す冬獅郎の前の席に一護がドカッと座った。


「悪ぃけど…今日はそんな気分じゃねぇんだ。」
「なに?ふられたか?」
「ふられてねぇ!縁起でもないこと言うな!」


デリケートな部分をつつかれて椅子を倒す勢いで立ち上がった。
無愛想無表情が代名詞の冬獅郎には珍しく赤い顔して息が荒い様子に、驚いた一護が一言。



「お前………彼女いたの?」
「…………。」



言ってなかったっけ?




 
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