短編2
□ため息の数4・a great soldier
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日番谷君の赤い車。
派手なスポーツタイプのこれに乗るのは確か二度目です。
近くのコインパーキングからガッタンと軽く段差を乗り越え車が走り出せば、そこは小さな反省部屋、ああ…幼い頃に入れられた押し入れがよみがえる…。
いったい何がいけなかったんだろう?合鍵は取り上げた、当然だね。もっと全力で怒ればよかったんだろうか?本気の一本背負いをすれば…、いやいや無理無理。現実的に無理。あたしと日番谷君の身長差だとあたしは背負い投げのつもりでも彼にとってはタダの前屈運動になりそう。これはやらなくて正解だったな。
他に反省点は…やっぱりあれかな。
あたしを見上げた時の日番谷君が子犬に見えたから、かな。普段大人っぽくて滅多なことでは表情を変えない彼がにぱっと笑った、ただそれだけのことで数々の悪行を許してしまったあたしは我ながら甘い人間だ。
でもだって子犬な日番谷君が尻尾をパタパタさせて見上げてくるんだよ?これはカワゆいでしょう。あの吊り上がった目が少年のつぶらな瞳に見えたなんてあたしもどうかしてる。
助手席で窓の外を流れる町並みをぼんやり見てたあたしは横からの視線を感じて日番谷君に目を移す。
「…なに……?」
「いや……喋らないから……。」
「そりゃ、あたしだって四六時中喋り続けてるわけじゃないよ。」
「んなことわかってるよ。…なんか静かだから、どうしたのかな「日番谷君!前!前見て前!!」
慌てて叫んだ。
あんたいつまで前方不注意してんの!危ないから!こっち見なくていいし、下も向かないで!
「あー、焦ったー。な。」
「あはは……。」
「な♪」じゃないわよ!(←♪マークはついてません)
センターラインを割ってた車はすぐに軌道修正され元の進行方向へ。
車の運転には性格が出るとか言うけど、危ない性格まんまじゃないですか!しかもなんか珍しく笑ってるし。子犬日番谷はどこいったの?は…!もしかしてあの子犬姿は悪魔の擬態能力によるもの!?
びし!
「あたー!」
「雛森ぃ…、また変なこと考えてるだろ?」
運転中なのにでこピンが飛んできた。
「あぅ……、痛いよぉ…。」
手加減なしのでこピンはハンパなく痛くて泣けてくる。
「痛いよ日番谷君!ちょっとは加減してよ、めちゃめちゃ痛いんだから!」
「ちゃんと手加減してやってるだろ?」
「嘘だー!中指に殺意を感じるもん!絶対に手加減してないよ!」
あんたあたしの頭蓋骨割る気か!
人を痛い目に合わせたくせに、日番谷君はチラリとあたしを見ると、ぷっと小さく吹いた。
「…………。」
全然おかしくないんですけど…。
ちっとも笑える要素無いんですけど…。
あなた何故肩震わせてんですか?人を見て笑うなんて失礼ですよ。
「……日番谷君…笑ってるね……?」
「…いや!俺は笑ってなんか……ぶぷ!」
「やっぱり笑ってる!あたしがオデコ痛がってるのがそんなにおかしい!?」
「くくっ……、いや笑ってないって。」
白々しすぎるわ!
いつもの無愛想さはどうしたのよ!
ハンドルを握る日番谷君はチラリチラリとしかこっちを見ないけど、その度に肩を揺らして笑うのだ。あたしはなんだか笑い者にされてるみたいで面白くないから精一杯、目に力を入れて白い悪魔を睨んだら。
「怒るなよ。そんなに痛かったのか?悪かったな。」
チラリと隣りのあたしを見て再び前を向く彼。日番谷君はそのまま片手ハンドルをして、空いた片手であたしのオデコを撫でてくれた、適当に。
「………。」
ほんとすごく適当…。
でもこれは彼なりに取り繕ったつもりなんだろうか…。
考えこむあたしのオデコを日番谷君はずっとなでなで。
ちょ、もういいです。運転に集中してください。
「うぁ、髪の毛グチャグチャ……。」
しつこい撫で擦りに前髪が…。
「ぶっ!」
「日番谷君!」
乱された髪を直すあたしを見て日番谷君がまた吹き出した。それ何回め?反省の色が見当たらないよね?
反省部屋は一人で入るからこそ反省部屋なんだと二十歳をすぎて初めて知りました。