短編2

□ため息の数4・a great soldier
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1・雛森






日頃無愛想な日番谷君が、やたらにこやかに振り向いた。

珍しく眉間に皺が一本も無いその表情と料理する気満々なのが窺える腕まくり。


悪夢の夜、再来かと、あたしはもう一度突っ伏して泣きたくなった。















「あ、…なんもねぇ…。」



うちの小さな冷蔵庫を開け、日番谷君が呟いたのが聞こえた。


「……へ?」


目が回りそうなほどの空腹と、同じく目が回らんばかりの非常事態に、本格的な泣きに入っていたあたしは日番谷君の呟きが何を意味するのか一瞬わからなかった。



「日番谷君……?どうしたの?」



突っ伏していた床から立ち上がり、冷蔵庫の扉を開けて中を見ている彼にそっと近付き後ろから覗く。



ビールしか入っていない冷蔵庫。あと調味料と。



「あ、そうか、あたし帰ってたから……。」



冷蔵庫前で佇む日番谷君はほっといて、ポンと一つ手をたたいた。


でかした、あたし!
これで彼は料理自慢らしい腕を奮えない。


そうだそうだ思い出した。
夏休みに実家へ帰るから冷蔵庫の中の物は全部無くしちゃったんだ。
今我が家の冷蔵庫には日番谷君が勝手に入れたビールのみ。

よくやったあたし。これで彼は料理できない。よってあたしもお腹を壊さなくてすむ。

今なお冷蔵庫を覗いてる日番谷君の後ろで、あたしは密かに諸手をあげて万歳を連呼した。


(やったー!助かったー!ばんざーいばんざーいばんざーい!)(口パク)



「おい。」


「あ、はい!」


冷蔵庫の扉に手をかけたままの彼が振り返り、あたしの喜びは一時停止。


えと…、なんですか?
いやに座った目をしていらっしゃいますが?



「買い物に行くぞ。」


「え!」


「この辺で一番近いスーパーを教えろ。」


「日番谷君!そこまでしてもらわなくてもいいから!ね!?」


「お前腹減ってんだろ?遠慮すんな。」


「してないって!」


「おら準備しろ、行くぞ。」


「人の話聞いてる!?」



「外あちぃだろうなー。」


「日番谷君!」



あくまでも手料理にこだわるのか、日番谷君は既に玄関で靴を履いてて片手に車の鍵を持っている。



「ちょっとおぉ!」



「うわ、やっぱ外、あちぃわ。」


ガチャリと扉を開けた彼が外の暑さに顔をしかめる。


ほんと素早い。
もうちょっとノロノロしようよ、人生急ぎすぎは良くないよ。
日番谷君って年とったら絶対朝、早起きするおじいさんになるタイプだよ。異常に早起きして朝刊を待つタイプだよ。
朝寝坊推進派のあたしとは正反対だと思う。賭けてもいい。



「……カップラーメン食べたい。」


「こらー、早くこーい。おせーぞー。」










小さく小さく呟いたあたしの言葉は鼻歌混じりの彼の声に吹き飛ばされて飛んでいった。



 
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