短編2

□ため息の数3・sugarless lady
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日番谷君があたしの部屋から出ていけば、もうあたし達は以前の二人にすんなり戻る。

特に休日に会うこともなく、ゼミで見かけても挨拶するわけでもない。

始めのうちしばらくはバイトから帰ったらまたドアの所にいるんじゃないかと気が気じゃなかったけれど、もうそんなことはなかった。
大学で偶然目があっても日番谷君はニコリともせず何にもなかったような顔をする。
だからあたしも以前と同じ態度をとった。

あのしつこい訪問と強引な物言いが強烈に印象に残っているあたしは彼の態度の違いに戸惑ったけれど平和に過ぎてゆく日々に安心もした。

それでも彼が来なくなって一週間はビクビクしてて警戒心をなかなか解けなかったけれども、その状態が二週間三週間経ち漸くほっとひとごこちついたのだ。


あの悪夢の数日間はどうやら彼の気紛れだったみたい。じゃなきゃ人気者の有名人な日番谷君があたしなんかのところに来る理由がない。


よかった。
本当によかった。

これで残りの大学生活も平穏無事にすごすことができる。もうすぐやってくる二か月間の夏休みも思いっきり楽しめそうだ。









「桃は夏休みは実家へ帰るのか?」


大学内のコンビニでお菓子を物色中のあたしとルキアちゃん。

アップルレーズンのパンを手にとりながら彼女があたしに尋ねてきた。


「うん。今年は早く帰ろうかと思ってるんだ。ほら、秋に実習が入ってるでしょ?その準備もあるしねー。」


あたしはメイプルメロンパンにしよう。


「なるほど。ならば一緒に帰らぬか?その途中、私の実家で少し遊んでいけ。」


「え!ルキアちゃん家に行ってもいいの!?」


友達のルキアちゃんとあたしの実家は隣りの県同士。あたしの帰省コースの途中に彼女の家があって、今までに何回となくルキアちゃんとは一緒に帰省してきたが家に誘われたのは初めてだ。


「ああ、私がいつも桃のことを話してたら兄様が会いたいとおっしゃられてな。」


「え。ルキアちゃんのお兄さん?」


あたしは一度だけ写真を見せてもらった彼女のお兄さんを思い浮かべた。

確かとても綺麗で真面目そうなお兄さんだった。ただニコリとも笑っていないその表情に気難しい感じがしたのを覚えている。

そんなあたしの気持ちが顔に出てたのか、ルキアちゃんは困ったようにクスリと笑って言った。


「大丈夫だ。兄様は既に桃のことを気に入っておられる。それに解りにくいが実は兄様はとても優しい。」


ルキアちゃんが反対側の商品棚を眺め始めたのであたしもそれに習って身を返す。ここってカップラーメンコーナー。ルキアちゃん、カップ麺も食べる気なんだ。

あたしも小さな卵スープを手にとり胸元でパンといっしょに抱える。


「じゃあ…、お言葉に甘えてお邪魔しようかな?」


ルキアちゃん家にお泊まり。うん、とっても楽しそう。ルキアちゃんのマンションにはよく泊まったりしてるけど実家は初めてだ。彼女がどんな所で生まれ育ったか見てみたい。


あたしは夏休みの楽しい計画が一つ増えてだらしなく顔が緩んでしまった。


「決まりだな。」


そんなあたしを見てルキアちゃんがニッコリと笑う。
それにえへへと返してレジに向かうあたし達。



「パンが一点、チョコが一点ーー」


レジの女の子が精算してくれる。


「スープが一点、全部で320円です。」


「はい。……って、ええ!」

「は?」


財布を開けてお金を置いたあたしはレジ台に置かれた自分が買った商品を見て驚いた。


菓子パン、チョコ、は、いいとして……、な

なんでもずくスープ!?


「あわわ……。」


「あの…?お客様…?」


「こ、これ間違いなんです!返品…、いえ交換します!」


サッカー台に置かれた鬼門のもずくスープをひったくるように掴むと狭い店内を全力疾走で。


なんで学内コンビニにもずくスープが置いてあるの!?
ひょっとして定番商品!?


せっかくせっかく忘れていたのに!おのれー!


「も、桃……どうしたのだ?」


ぜいぜい息を切らして再びレジ前にたどり着いたあたしの形相を見てルキアちゃんが慄いた顔をしている。

お願いルキアちゃん、あたしのこと怖がらないでね。

それもこれも全て彼のせいだ。
悪魔作の不思議スープはあたしの中でとんでもないトラウマとなってしまったんだろうか。


くぅ……。

仕返し……、したいけどしたいけど…関わりたくないのもまた本音。




「あはは…、なんでもないの。」






悔しいけれど唇をギリリと噛むしかできない夏休み前でした。



 
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