短編2
□ため息の数2・trouble night
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そうだ。悪魔って図々しいんだ。
知ってたじゃない。映画や漫画に出てくる悪魔はいつだって気がつけば部屋の中に入ってた。
そんでもって契約を交わした人間の魂を………。
いやいや、まさかね。
彼は単なるゼミ仲間だ。あたしの為に激しく不思議なスープを作ってくれたり、夕食をおごってくれたりして、いい所もちゃんとある。
例えこんな時間に押しかけられようとも彼はいい人………だ、…………たぶん。
今、あたしの後ろで「早く開けろー。」と急かしてくれちゃったりしている彼、日番谷君。
昨日、ご飯をごちそうになった時は神様にさえ見えたけど、今は再び白い悪魔に見えてきた。
うう…、早く休みたいのに…。
このドア開けたら当然部屋の中に入る気だよね?
こんな時間に女の子の部屋にためらいなく入る気かな?
慣れてるってこと?
言っとくけどあたし達は友達とも言えない単なるお知り合いだ。
できればここで帰ってほしいです。
部屋には入れたくありません。
日番谷君が今まで、どんな女の子と付き合ってきたのか知らないけれど、あたしは男の人をそんな簡単に部屋にあげたりはしないのだ。
昨日は弱っている隙を突かれたのと、悪魔力に負けただけなんだから。
あ、何か余計にしんどくなってきた。
あたしは鞄から取り出した鍵を握りしめて後ろを振り返った。
「あのね、日番谷君。あの……、そう!今あたしの部屋すんごく散らかっているの!だからどこか……。」
「どこかって?」
………………あたし百円しか持ってなかった。
「どこ…………って……、そこの自販機の前、………とか?」
「却下。俺は別に散らかってても気にしない。おら、さっさと開けろ。」
いやだー!
部屋の鍵を握りしめ、鍵穴を見つめて必死に場所がえの理由を考えるけど、咄嗟にいい案が浮かぶあたしじゃない。
どこか…、近くの24hカフェに行きたいけど、元金百円じゃあ、どこにもいけない。
「そうだ!コンビニ行かない?うま○棒おごるよ!」
それくらいなら買える。
今から部屋の中に上がり込まれるよりも、日番谷君と夜の公園に行くよりも、明るいコンビニ前でうま○棒をパリパリ食べる方がいい!
「…………いらね。却下だ。」
「あー!じゃあじゃあ……、」
暗い場所よりも明るい場所、人のなるべく多い場所。
あたしは脳内でアレコレ検索するけどグルグルするばかりで何も思いつかない。
ダラダラ汗をかきながら立ってるあたしに痺れをきらしたのか、背後から、ひょいと手を伸ばしてあたしの手から部屋の鍵を奪っていった。
「あ!ちょ、ちょっと勝手に開けないで!」
「鈍いんだよ。さっさと開けろ。」
むかー!
「日番谷君!人の物を勝手に触るなって何回言えばわかるの!?」
「細かいこと、いちいち気にするな。ほら、早く入れよ。」
気にするっちゅーの!
悪魔さんに人間界の一般常識を教えるべきだろうか?
夜遅くに恋人でも友達でもない女の子の部屋に入ってはいけません。
招かれてもいないのなら尚更です。
「早く入れって。なに、突っ立ってんだよ。あ、傘、そこに置いといて。」
ガチャリとドアを開けてあたしを中に促す彼。
ここ、あたしの部屋なんですけど…。なに自分の部屋に入れてやるみたいな態度してんの?
「待ってよ!あたしまだ入っていいなんて………。」
「早くしろ……。」
翡翠の瞳がキラリと光った。
わーん!
また目から何か出したー!
それいったいなんですか?
悪魔の能力の一つですか?
催眠とか暗示とか呪縛とか洗脳とか、あたしにかけようとしてるよね?ぜったいに。
日番谷君の瞳がキラリと光る度に身を竦ませるあたしは、もう、既に手遅れかもしれない。
「ううーー………。」
日番谷君の大きな手があたしの頭をガシッと掴み、部屋の中へポイッと入れられた。
筆舌しがたい…………敗北感。
「お邪魔しまーす。」
玄関でうちひしがれるあたしを置いて、さっさと靴を脱いだ日番谷君。
なにが楽しいのか浮かれた口調に腹が立つ。
なにが「お邪魔しまあす♪」よ!
彼に自宅を知られた、それが最大の敗因だと痛感した。