短編2
□ため息の数
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1・雛森
………飲み過ぎた。
今日は日曜で、梅雨の晴れ間のいい天気。こんな日は貴重だ。
なのになのに……。
雛森桃 20歳
二日酔いで動けません。
昨夜、久々にゼミの仲間と飲みにいこうと誘われたのはいい。
一軒目の居酒屋は良かった。
出された料理も美味しくて、ビールのツマミも美味しくて、かなり上機嫌になったのは覚えてる。………うん、覚えてる覚えてる。
その時、上機嫌なまま帰ればよかったんだ。
確かその後同じゼミの吉良君とルキアちゃんと肩組んで通りを歩いたのも覚えてる。よしよしここまでは覚えてる。
それから皆で二軒めの店になだれ込んで……、二十歳になった祝いだとかいって阿散井君に何かきっついお酒を飲まされたような……。
「ダメだ。……思い出せないや。」
あたしはいまだに夕べの服のままだ。
たぶん部屋に戻ってシャワーも浴びずに眠ってしまったのだろう。そこんところの記憶が一切無いってどうよ、あたし。
記憶を無くすほど酔うなんて初めてだよ。
「うー…。」
自己嫌悪に陥るも、あたしの思考は再び睡魔に襲われ、今一度眠りの世界へいこうと瞼を閉じた。
ピンポーン
う…、誰か来た。
雛森桃は今、とても動きたくない気分です。
もし宅配のお兄さんだったらごめんなさい、出直してきてください。
セールスの方だったら二度と来ないでください。
近所の小学生だったらこれもごめん、お姉さん今日はとても野球に付き合えるような状態じゃないの、許して。
ピンポーン
はいはい、ごめんってば。
あたしは扉の外の誰かが早くいなくなるようにと願って毛布を頭から被った。
チャイムの高い音って、けっこう頭に響くんだ、初めて知ったよ。
ピンポンピンポンピンポンピンポン
「…………。」
うううううー!
しつっこい!
誰よ!いったい!
桃ちゃんは頭痛いって言ってるでしょーが!
ピンポンピンポンピンポンピンポーン
やめ…、お願い……、
あたしが悪うございました。
出ます。
出ますから…、
あたしが顔を出すまで鳴らされ続けられそうなチャイムを止めるため、重い身体を無理矢理ベッドから起き上がらせた。
おのれ………、
「……はい。」
顔にありありと不機嫌づらが浮かんでたと思う。
だってあの鳴らし方はないでしょ。まあ、居留守使ってたあたしも悪いけど…、ちょっと非常識じゃない?
いつもよりも重く感じられる扉を開けたあたしは、来客の確認よりも外の明るさに目をやられた。
ま、眩しい……。
思わず手で両目を押さえてしまった。
「なんだよ。まだ寝てたのか?もう昼前だぜ。」
いやになれなれしい口調。
「は………?」
「まだ寝ぼけてんのかよ。」
どこかで聞き覚えのある低い声にあたしは手で光を遮りながら本人を見た。
逆光で顔は暗いけど、綺麗な銀髪が太陽の光を浴びてキラキラしてる。
背の高い、目の前に立つ彼を、あたしは明るさに慣れてきた目で凝視した。
「えーと、あなた同じゼミの………、日番谷君?」
「おう、もう酔ってないみたいだな。」
ズキズキ痛む頭であたしは考える。
「え…、本当に日番谷君?あの頭が良くて無愛想で、顔も良くて無愛想で、女の子にモテて無愛想な日番谷君?」
「…………。」
確かにゼミはいっしょだ、昨日の飲み会に彼も参加していたと思う。
でも、今まで一度も声を交わしたこともなければ、こんな風に休日に会うこともなかったのに今日はなんで…。
「あの…、あたし何か昨日忘れ物でもしたでしょうか?」
眉間に皺を寄せる彼に恐る恐る尋ねると、デッカイため息をつかれた。