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□130000h感謝小説「二匹おおかみ」
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境内を入ってすぐ右にこぢんまりしたお茶屋さんがある。まっすぐそこへ向かおうとしたあたしの腕を引っ張り、先ずは御参りしてからだろと日番谷君が正面を指した。
さすがにちょっと食い気が過ぎたか。
誤魔化すように頭をかいて笑ったら呆れた顔で今更か、なんて、ちょっと諦めないで。
二人でお参りして、さっき通った参道を少し後戻りしていざお茶屋さんへと目指すあたしの服の裾を日番谷君が再びツン、と引いた。
ほら、いいのか?お前の好きな、と顎で指した先にはおみくじが。
そういえば今年は初詣にも引いてない。あれ以来なんとなく以前ほどはしゃげなくなったおみくじだけど日番谷君に促されてそれぞれ一枚ずつ引いてみた。
カサカサと小さな紙を広げ、まず目に飛び込んできた中吉の文字にあたしは喜んだ。『少し落ち着いて辺りを見れば失せ物も見つかるでしょう』の一文が慌てん坊のあたしには痛い。複雑な気分のあたしに笑う日番谷君のは、と覗いてみれば彼はみごとに大吉を引き当てていた。
いつもと同じ無表情だから彼の喜怒哀楽は読みづらいけど不機嫌でないのは確か。
金運、恋愛運、仕事に勉強、最後に総合運が記されてた。それを二人で覗きこむ。
『周りの意見に耳を傾ければ概ね良好。一匹狼もほどほどに。』
なんだか妙に当たってるような……。
普段、あたしを頑固者呼ばわりしている日番谷君だけど、いやいやなかなか彼だって。先輩や同僚はともかく部下や後輩からはちょっと恐れられてるっぽいことをあたしは知っている。
静かに隣りの彼を見上げたら、案の定、眉間に皺が三本入ってた。
「…これ当たってねぇな。」
「だ、だよね、こんなの気にしちゃダメだよ、うん。」
「だってもう二匹狼だしな。」
楽しげに口角を上げた彼があたしの手をぎゅっと握った。
なんだ、そこなんだ……。
あたしはホッと胸をなで下ろし、いつも右側にある温度に寄り添った。
小さな頃から知ってたけれど思いが通じ合ったのは高校卒業の時。随分遠回りしたけれど、あたしはもう絶対日番谷君から離れないよ。この先日番谷君を一匹ぽっちにはさせないから。
うん、ずっとずっと二匹狼でいさせてね。
食べ物の好みが変わって、短いスカートが似合わなくなって、繋いだ手に皺ができて、それでも隣りにあなたがいればきっとずっと笑ってられる。
無性に照れくさくてぎこちなく笑ったら、日番谷君が最高にいい顔を返してくれた。
あたしはすごく嬉しくなって、繋いだ手のまま彼の腕に縋るみたいに抱きついた。