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□90000h感謝小説『頭はんぶん』
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「……その顔…………日番谷君……だ…大丈夫?」
幼馴染みの異常に赤い顔を見て、おそるおそる声をかけた雛森に日番谷は一度だけ前髪をかきあげて怒ったような顔をしたけれど、でもその難しい表情は長くは続かなかった。呆れたようにも見える表情は、雛森が瞬きを一回する間にたちまち笑顔に変わった。
「ふぇ?」
「盛大な告白ありがとう。」
「は…?お、怒ってないの?」
「馬鹿。お前馬鹿。ここまで馬鹿だとは思わなかった。」
「もう、なんで馬鹿ばっかり言うの!」
真剣に心配していたのに馬鹿呼ばわりされて頬を膨らませたらいたずらっぽく笑われた。どこか嬉しそうに笑う日番谷はまるでとっておきの秘密を掴んだ少年みたいだ。
「少しはお前も困れ。俺はこれに慣れるのにすごく苦労した。」
「え……日番谷君は……、」
「なんでそうなるか知りたいか?」
「え?う、うん……。」
「自分で考えろ。」
「ええ!前のフりは何!教えてくれないの!?」
「お前も少しはこの苦しみを味わえ。」
「……いじわる。」
「なんとでも。今まで俺を弄んだ罰だ。」
「もて…?」
日番谷の言ってる意味がよく分からなくて、雛森はこてんと首を傾げて斜め上の幼馴染みを見返した。
でも眉を下げて答えを欲しがる雛森を見ても日番谷は嬉しそうに微笑むだけでとても教えてくれそうにない。これはどうやら本気で自力で謎を解くしかなさそうだ。雛森は小さく唸り声をあげて目の前の人物を睨んだ。
「…………教えて。」
「やだ。俺は少しこの状況を楽しみたい。」
「あ、悪趣味!」
「俺は何年もこの状況下に置かれたんだぞ。」
「じゃあその時言ってくれればよかったのに。」
「…………タイミングってもんがあるんだよ。」
「そうなの?」
「ああ。どうしてもわからなかったら俺んとこへ聞きに来い。いいか、他のヤツに聞いたりするなよ。」
「うん?」
「そしたらもう簡単に大好きだなんて言えないからな。」
「なんで?」
今、雛森が言い放った「好き」は家族としてのつもりだろうがその内容と言い訳の数々は日番谷が欲しかった言葉だ。
その違いに言ってる本人が気付いてない。
円らな瞳でまだ見つめてる雛森に気がついて、日番谷はどう隠したって抑えられない笑いを下手な咳払いで誤魔化した。
「ねぇなんで?」
「そのうち嫌でも分かるさ。」
いたずら坊主の表情をして、質問にはやはり答えずに、最後につん、と雛森の額をつつくと日番谷はくるりと向きを変え自隊へと歩いていった。背中の十の文字が踊りだしそうに見えるのは目の錯覚だろうか。足取りだっていつもと違う。
「なんで罰なのよ……すぐに聞きに行っちゃうから。」
遠くなる苦しみの元凶を見送りながら、つつかれた額に手をあてた。もう片方の手で胸を押さえた。
こんな苦しいの彼は経験済みだなんて。
そう思ったらもっと胸が狭く苦しくなった。