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□90000h感謝小説『頭はんぶん』
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そっと前髪を揺らす風に気がついて、ちらりと盗むように、ほんの少し上をみたら隣りに立つ日番谷の顔が間近にあった。
碧の両目は真直ぐに雛森が持つプリントへと向いていて。
ようするに二人は寄り添うようにして一枚の紙を見ているのだ。


「一泊二日の温泉ツアー?しかも隊長格のみって…もし全員参加希望出したらどうするんだよ。」


「……そ…だね…。」


「ったく、この忙しい時期に何考えてんだ?行くわけねぇっつーの。」


「………。」



日番谷が何か言うたびに吐息が雛森の前髪にかかる。その距離の近さに雛森は俯いた。


















幼馴染みの日番谷に身長を抜かされたのなんてもうかなり前の話だ。雛森と目線が並んだ時、大きくなったね、もうすぐぬかされちゃうね、と話してたら本当にあっと言う間にぬかされた。
雛森だって少しずつ大きくなってきているけれど、本格的な成長期に入った日番谷にはとても敵わなかった。

ちょっぴり悔しかったけれど日番谷が身長を気にしていたことを知っていたから雛森は彼と共に成長を喜んだ。きっともっと大きくなるよと言ったら照れくさそうに鼻を鳴らしたのをよく覚えている。

雛森よりも低かった目線が並び、半年ほどで一気にぬかされて、今じゃあ横に並べば日番谷の顎が雛森の目線に並ぶ。

だから二人が近付けば日番谷の吐く息が額にあたるなんて当たり前のことなのだけれど、それが最近やけに気になって仕方がない。


「参加締切は二十日か…。俺はパスだな。」



日付を確認しようと、ふぃ、と雛森が持つ用紙を日番谷が覗きこんだ。そのあまりの近さにどきりと心臓が一段と大きく動いた。


「ひ、日番谷君!!」


「あ?」



近付いた顔に逞しくなった身体に低くなった声に、なんかいろいろともう堪えられなくて思わず大きな声で名前を叫んだけれど特に言いたかったことなんてない。考えなしに声をあげてしまったがそれで日番谷との距離が離れたわけじゃなかった。
むしろ突然喚いた雛森へと彼の注意は向けられて、それに習って顔の角度も真直ぐに方向転換した。雛森の方へ。


「あ、や、その、ね?」


「急にデカい声出すなよ。耳がおかしくなっちまう。」


「あ、あの…ほら!ここに『なるべく参加』って書いてあるよ。行った方が良くない?」



慌てて誤魔化そうと、その場凌ぎで適当なことを言った。でも考えなしの言葉はやはり願った結果には繋がらない。雛森の言葉は余計に日番谷との距離を縮めてしまうものだったようで。


「んなこと書いてあるかあ?」


雛森の顔から翡翠が逸れる。逸れたのはいいが怪訝な表情でプリントを覗きこんだ日番谷は今よりも雛森に近付くことになって、つい後ろに身を引いてしまった。


「こら、動かすなよ。読めねぇって。」


「ご、ごめん、だって……。」


「だって……、なに?」


「日番谷君……近い………、もう少し…あの…離…れ……。」


困っている理由をもごもごと伝えたら、成長した幼馴染みの瞳が大きく見開かれた。

ジッと赤い顔で下から見つめる雛森と、しばし視線が交あえばなぜか弛みだした口元を慌てて手で隠し、彼はくるりと身体ごと横を向いた。





 
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