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□二周年記念話「二匹の子猫」
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うちの隊長を猫に例えたなら気難しくて絶対に人間に懐いたりしない血統書付きの銀色子猫だ。
名前を呼んでもちらりとこちらを見るだけで、すぐにフンとそっぽを向いていずこかへ。それかくるりと背中を向けて尻尾だけで返事する?
どっちにしても飼い主を飼い主だとは思わない猫だわね。可愛げがあるのは寝ている時だけとか猫でも人でも変わりないか。
「隊長ー、隊員がくれた甘納豆ありますよ。食べません?」
「てめーひとりで食ってろ。そんな暇ねぇんだよ。」
「はーい。」
子猫隊長の低い鳴き声にあたしは今朝、隊員がくれた甘納豆を一つ口に放り込んだ。
そう言えばもう昼か。でもこの分じゃすぐに抜けられそうもない。遅めの昼食は確実だ。
斜め前の生意気子猫にため息ついた。
と、扉の向こうから優しい声が。
「五番隊雛森桃です。」
「入れ。」
「いらっしゃい雛森。」
「こんにちは乱菊さん、日番谷君。」
「何のようだ?」
大好きな子猫ちゃんの登場にも仕事に追われるうちの隊長は顔も上げない。
いいんですかね。
そんな台詞は胸の中に、あたしはやって来た雛森にソファーをすすめた。
「久しぶりに日番谷君とお昼ご飯食べたいなと思って。」
ふわりと笑って手にした包みをあたしに見せた。
きっと中は重箱。豪華三段重ねと見た。
「出し巻も美味しくできたよ。」
可愛く笑うこの子に仕事に追われてる隊長はなんて言うのか。なぁんて、決まりきった答えはわかっていたりする。
それでも一応仕方なさそうに顔を上げて大袈裟にため息つくとこは立派です。
「ったく、俺の仕事量みてわかんだろ?」
「うん、でもちょっとだけ一息入れようよ。」
隊長とつきあいの長い雛森は不機嫌そうにされても気にすることなくふわふわ笑う。
恐いもの知らず。
慣れなのか姉の貫禄なのかわからないけれど、ほんわか笑う雛森があたしにはまだ爪を出すことも知らない子猫に見える。
早く自分の武器を出さないと飢えた野獣に食べられちゃうわよ。や、そんなことチビ猫隊長が許さないか。
ソファーを立って隊長の前までとことこやってきた雛森はもう一度「ね?」と殺人級に可愛い笑顔で笑いかけた。
勝負ありだわね。
天然無垢な子猫ちゃんながら、ある意味一撃必殺を持つ仕事人だわ。
「……食ったらすぐ戻るからな。」
「うん!」
赤い顔して席を立った隊長が雛森を伴って執務室を出ていく。戸口の所で雛森を先に外へ出してくるりと振り返った。
「松本、逃げんなよ。」
おもくそ凄んで睨んだ直後、扉の向こうで可愛い子猫が「早く早く」と鳴き声あげた。
「いいか、わかったな。」
びし、と指差したけど更に可愛く名前を呼ばれて既に顔は弛んでる。
駄目押しとばかりにもう一度呼ぶ声が聞こえたら、吸い寄せられるように尻尾を一振り、出て行った。
訂正 あの子は黒猫子猫じゃなくてマタタビだ。
一時間後にはお腹を見せて寝転んだチビ猫隊長がきっとどこかにいるはずだ。
そんな二人を見つけても、誰も邪魔しちゃだめ。