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□60000h感謝記念『ダイブ』
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今日も暑くなりそう…。



洗濯物を干す手を休め、朝からチクリと刺すような陽光に、桃は額に滲んだ汗を拭った。ポツリと呟いた呟きは温度を上げる大気の中に氷のように溶けていった。



本格化し始めた夏が暑いのは現世もこちらもいっしょらしい。そう言えばこの間乱菊と雑誌の水着特集を見てた時、現世のプールとかいう所へ行かないかと桃を誘ってくれたっけ。夏の暑い日に水場の遊びはとても面白そうだ。
その場にいっしょにいた夫が即座に断ってくれていたけれど。


プールがどんなものか桃は知らないが、乱菊の話によるととても楽しい所らしい。池や川で泳ぐみたいに気持ちよくって、滑り台やボートもあるとか。女性死神協会から何回か行った海水浴と同じですかと尋ねたら、海とはまた違った楽しさがあるという。海は一種類の水場しかないけれど、プールは海も池も川の要素もあるという。

へぇ、と桃がその話を乱菊に聞いた時、きらきらと瞳を輝かせたのを仕事熱心な旦那様はみていなかった。サラサラと筆を動かしながら話に花を咲かせる女二人に「うるさいぞ」と言っただけだった。
その時桃が水着を注文したこともたぶん気付いてない。


「こんな日に行けば気持ちいいんだろうな。」


冷たい水の中に飛びこんだ時のことを想像して、桃は頬を緩めた。
流魂街にいた頃は冬獅郎と二人で暑い日はよく水遊びをしたっけ。遠い日のことを思うとついつい笑ってしまう。

思い出の1ページに目尻を下げ、空っぽになった洗濯籠を抱えあげ、桃はくるりと家の中へと足を向けた。






冬獅郎と桃が結婚して初めての夏を迎える。
長い長い幼馴染み時代を経、恋人時代は僅か半年で終らせて二人は夫婦となった。つきあい始めてすぐに大好きな冬獅郎からプロポーズされた時、桃は嬉しくて何度も何度も頷いた。きっと顔は恥ずかしいくらい真っ赤だったと思うけれど、冬獅郎もあんなに赤い顔をしているのは初めて見たからたぶんお互い様なのだ。


恋人になって一月での、性急すぎる感のある冬獅郎のプロポーズだったけれど長いつきあいの中で相手のことは知り尽くしていたし、何よりつきあい始めで気分も盛り上がっていた。それに桃は彼からのプロポーズをいつか結婚しようという意味で捉えたから、まさか具体的にあれよあれよと本当に式まで進んでしまうとは思わなくて。
もっと先の話だと思ってたのだ。



結婚は流れとか勢いが必要だとか聞いたことあるけどまさか本当に自分達が結婚してしまうなんて、いまだに嘘じゃないかと思う時がある。

怖いくらい幸せだから嘘だったら泣いてしまうのだろうけれど、あまりにも事がとんとん拍子に進んだから二人で新居を構えた今も時折夢かも、なんてほっぺたを抓ってしまいそうになる。



桃は洗濯籠を置くと、まだ布団の中で爆睡中の旦那様に近付いた。





 
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