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□40000h感謝小説『流れはとどまることなく』
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顔を合わせなくなって幾日も過ぎた。

もうこのまま幼馴染みの肩書きを持つだけの、ただ顔を知る程度の間柄になると思った。



彼から逃げて互いに楽になると思ったのに、あたしの中は前よりも大きな傷ができたようで。
新たな痛みは日を追うごとに強く痛く…。苦しい………。




そんな時だった。

彼の副官である乱菊さんが五番隊にやってきたのは。










隊長が倒れたの。









彼女の口から出た言葉は激しい衝撃とともに頭に突き刺さった。一拍の間をおき、あたしは手にしていた資料を全て投げ放って走り出していた。


今から思えばあの時の乱菊さんは落ち着いていた。きっと四番隊で容体の説明を受け、安心した上であたしに知らせてくれたのだろう。
その時の彼女の静かな声とゆっくりとした仕草から事態が深刻でないと読み取れず、冷静さを欠いて飛び出したあたしを見て乱菊さんはなんて思ったんだろう。まったくいたずらで意地悪で優しい先輩だ。



四番隊に着いてシロちゃんがいる病室を聞いて、血相を変えて扉を開けたあたし。
点滴を受けてるシロちゃんが目を見開いて驚いていた。


『雛………、』


突然現れたあたしを見てベッドに仰向けに横たわったシロちゃんが何か言おうと唇を動かしたのだけど、彼の言葉を待たずにあたしはベッド上の彼に抱き付いてしまった。そしてそのまま人目も憚らずわんわん泣いた。


きっと乱菊さんから彼のことを聞いた時にあたしの中の何かが弾けたんだ。
久しぶりにみたシロちゃんがとても愛しくて、心の中から わけのわからない何かが怒濤のように溢れてきて、もう抑えようがなかった。

たくさんのごめんなさいと、たくさんのありがとうを彼に伝えたい。
でもそれよりももっと伝えたいものがある。


横になる彼に抱き付き、柔らかな銀髪に顔を埋め、白いシーツを濡らし続けた。

長い間そうしていたあたしの背にいつの間にかシロちゃんの手が回されてて。子供を慰めるかのようにあたしの死覇裝の背を上下にさすり、やがて彼が口を開いた。



『…………過労と睡眠不足だってさ……。』



掠れた声は小さな呟き。



『……離れれば…もっと楽になるかと思ってたんだがな……。』



小さな呟きはまるで独り言。


『……俺、雛森を見るのが辛かった…。』


ピクンと心臓が跳ねた。
彼の言葉に胸の真ん中が冷えていく。


『…俺に無理して笑うのが………ああ、苦しい思いをさせてんだ……って…。』



彼の口から吐露される本当の気持ちに涙が止まり息をつめた。
初めて聞く、彼の思い。


言ってほしい。
聞かせてほしい。

心のどこかで怯えていた言葉を。
シロちゃんがずっと瞳の奥に隠していた声を。



『…そう考えたら……雛森を見れなかった……。だから、お前が俺を避けるようになって最初は正直、少しほっとした………。』



もっと言ってほしい。
耐えてた気持ちをもっと聞かせてほしい。
ちゃんと聞くから我慢しないでもっと。


『………でも、駄目なんだ……。』



辛いなら辛いと言って。
元凶があたしでも聞きたいの。



『……雛森がいないと………もっと辛くなるんだ……。お前を見ると苦しいのに、見れないともっと苦しい……。おかしいな……。』



『シロ………。』






動けなくなった。
ただ背にあてられた彼の掌がとても温かい。

もっと刺さるような言葉を覚悟していたのに。

大切な彼から発された言葉は冷えかけた胸に浸透して、あたしを深い場所から温めてくれる。




『………シロちゃんは優しすぎるよ。」


わがままで勝手なことばかりしているあたしなのに…。


涙は再び溢れ出て…。



『…なあ……離れても苦しいならいっしょにいて苦しい方が良くねえか………?』



顔を見るのが辛かった。でも、見なくなったらもっと辛くて…。

大切な人が傷付くのは嫌。
それが自分のせいならなお悲しい。

でも……。



『………いっしょにいよう、俺達……。』


でも、あなたが望んでくれるなら………。


あたしは更に深く銀髪に顔を埋めて。



『…………うん……っ、そばにいたいよ……。』



絞り出すように言ったら耳元で彼が小さく笑う気配がした。




『…………俺も。』









 
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