ss2
□20000h感謝小説「記憶温感」
2ページ/3ページ
静まり返った隊舎。
時間が時間なのだから当たり前か。
日番谷はやっとついたと大きな息を吐き、戸に手をかけて引く。
木が擦れる音は閑散で静かな廊下によく響くが、そんなことに慣れている日番谷はいつものこととさっさと室内に入った。
やっと眠れる……。
後ろ手に戸を閉め、肩の力を抜いた。
「ふー……。」
いつかきっと自分は過労死するんじゃないだろうか。
日番谷は暗い部屋の中を慣れた足取りで進んで行く。
死神の本来の仕事とはまったくかけ離れたデスクワークで過労死なんて哀しすぎる。仮にも隊長としてそんな死に様だけはしたくない。
薄ら寒い想像をしてぶるりと震えた時、奥の寝室から微かに音が聞こえる。
規則正しい静かな寝息だ。
クスリと日番谷の口許が緩む。
部屋に入る前から霊圧は感じてた。彼女しか持たない、或いは自分がそう感じるだけなのか、暖かな霊圧を。
「遅くなるっつったのに……。」
昼間会った時にそう伝えたら、わかったと頷いた恋人。
だから今夜は来ないものと思っていた。
静かに寝室の襖を開け、健やかな寝息をたてる雛森に近付く。そして彼女の枕元に膝をついて暗がりの中、僅かに差し込む月明りに照しだされた恋人の顔を覗いた。
「………くー……。」
あどけない寝顔は子供の頃のままだ。
「………ただいま、桃。」
掠れた声で囁いた。
深い夢の中にいるであろう雛森を起こさないように、でも起きてほしい気持ちもあって重ねるように耳元で囁いた。
「おやすみ……。」
少し前までは幼馴染みとしか肩書きを持たなかった二人だけれど、今は堂々と恋人だと言える。
もう、いいかげんこの長い片思いに訣別しようと玉砕覚悟で気持ちを伝えたら、雛森も同じ想いを返してくれた。
天にも昇る気持ちってああいうのを言うんだな。
実際に体感して初めてしみじみと語れる。
とても起きそうにない、深い眠りの恋人の頬に唇を一つ落として立ち上がる。
「風呂入るか……。」
不規則な仕事の死神達のために大浴場の湯は朝まで適温を保たれている。
夜はもう遅いけれどさっぱりしたくて日番谷は手拭いを掴んだ。