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□20000h感謝小説「記憶温感」
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秋から冬へと移り変わるこの季節。木枯らし吹き荒ぶ夜なんて珍しくもなんともなくなってきた今日この頃。


今日も今日とて部下の尻拭いという名の書類の山を片付け自室に帰る途中の日番谷。


ずっと同じ体勢で仕事をしていたからだろう、すっかり凝り固まってしまった肩の筋肉を、無駄な抵抗と知りつつ片手でもみほぐす。片手だけではもの足りず同時に首もグリグリと回してみるが……、本当に無駄な抵抗だな。


もう日はとっくに沈み、書類との格闘は深夜にまで及んでしまった。上司がこんなに頑張っているというのに、この余計な仕事を生み出した張本人である自称美人で有能な副官は月が顔を出して早々に行方をくらませてしまった。


「あの野郎……、絶対に減給してやる。」


だいたい自分の仕事を人に押しつけといて、よくもまあ遊びにいけるもんだ。しかも半端じゃない量だし。その神経の図太さは最早見習いたいとさえ思えてくるほどだ。見習わないけど。


片手をあてた日番谷の首筋を冷たい夜風が撫でていく。


なんの防寒対策もなく執務室から出てきたことにほんの一瞬後悔したが、自室までの短い距離だと思い直し、冷たい風に首を竦め足早に歩き始めた。


もう冬はすぐそこだ。
明るい月明りは桜の木に僅かに残った枯れ葉を照らし、冬の風がそれを揺らしていくのを日番谷に教える。

執務室を出てしばらくは温かかった日番谷の身体も着物もすぐに冷たい風に温度を奪われてしまった。

寒い。寒い寒い。
冬の寒さには強い自分だが、程よい暖かさが過ごしやすいに決まってる。風に瞬く夜空の星を仰ぎ見て、冷たいながらも清浄な空気を感じる。


「あいつ……、もう寝てるだろうな………。」


肩の間に首を入れ込むように竦めた。





 
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