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□80000h感謝小説「彼女の中の自分」
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あの頃すでに俺は雛森に甘かったんだな…。

正面でちくちくする雛森の手元をぼんやり見つめて過去の自分を振り返る。


その時の半纏はまだ健在で毎年寒くなれば箪笥の奥から出して着ている。
あれほど怒って投げた半纏だが着て見ればなかなかどうして、とっても温かくて毎年冬の定番のようにお目見えしている。人に見られなければ何の問題もないのだ。自室で着る分には構わないだろう。冬になると毎年それを着て丸くなっている自分を見て雛森が嬉しそうにしてくれるのもまたいい。
かれこれ50年。思いのほか長いつきあいとなった代物だ。こんなに長持ちするとは思っていなかったが、気がつけば50年だ。



つまり、それはそのまま雛森といっしょにいた年数を表すということで。流魂街時代から数えれば優にその3倍近く。
日番谷の人生の中で、一番長くいっしょにいた者と言えば雛森しか浮かばない。


火鉢を挟んだ向かいで鼻歌を歌いだした幼馴染みを見ながらお茶を飲んだ。



一人、先に死神になってしまった雛森に寂しさを覚えた時もあったけど、今はまた、こうして近くで笑いあえる。

彼女に何かあった時は助けに走れる距離にいる。


この気持ちに名前をつける気はない。
家族だろうとなんだろうと大切な者を守りたいと思う気持ちに嘘はない。理由を求めるなんて意味ない気がする。自分は雛森の笑顔を守っていければいいのだから。

もし、理由が必要だと言うのなら………。

幼馴染みだから?
家族だから?
共に戦う仲間?
心にあるものは……、




それはその時に考えるさ。




もう一口お茶を含んだ時、元気に「できた!」の声がした。


「完成か?」


「うん!ほら、着てみて。今度のは赤ちゃんっぽくないでしょ?」


掲げられた、少し大人な色合いに満足の笑みを返した。


どうやら自分は彼女の中で成長したようだ。











 
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