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□80000h感謝小説「彼女の中の自分」
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本格的な冬はまだこれからだというのに12月初冬の今日は随分と冷え込む。


十番隊隊長、日番谷冬獅郎は片手を火鉢に翳し、もう片方の手には火箸を持って、鉢の中をつっついた。



「お前…、まだ帰らねぇのかよ……。」



僅かな灰をまきあげて火鉢の中の炭がカラリと崩れる。

ほんのりと温かくなった室内で日番谷と火鉢を挟んで差し向かいで座る彼の幼馴染み。


「うん、もうちょっとー。」


手を動かしながら軽く答えるその様子にため息をついた。






夕飯を終えてしばらくした頃、彼女、雛森は手に縫いかけの着物と綿と裁縫道具を風呂敷に包み突然やってきた。


「こんばんは日番谷君。邪魔するね。」


軽やかに笑ってそう言うと、火鉢で暖をとりながら本を読んでいた日番谷の返事もきかずに正面を陣取り腰を落ち着ける。


「なんだよ急に。何持って来たんだ?」


「ん?半纏縫おうと思って。」


「はあ?んなもん自分の部屋でやれよ。わざわざ俺の部屋へ来てすんな。」


「だってもうちょっとで完成なんだよ。できたらすぐに着てもらおうと思って。」


するすると臙脂色の風呂敷をほどき出した雛森を睨んで不機嫌を表した。

いくら幼馴染みで兄弟みたいに育ったとはいえ自分達は赤の他人だ。血の繋がりなど何もない男と女なのだ。
こんな時間に訪ねてきて襲われたいのか?


苦い顔になる日番谷など気にもせず、まだ縫いかけのそれを彼に見せるように掲げ、なにがそんなに嬉しいのか屈託なく笑う。


「半纏なら今のがまだ着れるのに……。」


毎年冬になったら箪笥の奥から引っ張りだしてくる明るい藍色の半纏がある。それも雛森のお手製のものだ。しかも彼女の半纏、製作第一号の品。

ところどころ破れたりほつれていたりするけれど、まだまだ十分着れる。もう少し寒くなったら引っ張り出すつもりだったのに。


「あんな古いの、もうボロボロじゃない。新しいのができたらこっちをきてよ。」


さっそく針に糸を通し縫い始める。慣れた手つきで生地を捌き、チクチクと運針の手を止めることなく彼女が言う。
どうやら今度のは深い鶯色の半纏らしい。


そういえば……。


前回作ってもらった時は、栄えある第一作にもかかわらず日番谷は文句をタレたのだ。今思い出した。


袖丈も背中まわりも寸法はばっちりだった。羽織れば温かく、一度そのぬくもりを知ったら冬中手放せなかった。ただ一つ不満を言うならその温かい半纏の柄だ。


空の青よりも濃い藍色はどちらかというと明るめの青で、まあ、それはいいとして、問題は柄だ。
可愛く小さく描かれた犬やら猫やら熊やら狸やらがちりばめられたようにえがかれていたから眉間に皺がよるのも仕方がないと思う。


弟扱いというよりも、子供扱い、というよりも………赤ちゃん扱い?


子供でももう少ししっかりした柄の着物をきるだろう。
あんなカワゆい動物柄、乳飲み子みたいだ。


雛森の無邪気な仕打ちに日番谷の眉間に激しく皺が。
過去の彼女に猛然と不満が沸いてくる。


あの時は憤然と雛森につっかかった。こんな恥ずかしい物着れるかと怒鳴った。けれど雛森は謝るどころか「え〜、可愛いのに〜。」とか言って間延びした返事をしたからまた日番谷が怒って…。

雛森の中で自分は赤ん坊なのかと思うと腹がたって腹がたって。

怒り心頭の日番谷が仕上がった半纏をぶつけるように雛森へと投げると、初めて彼女が反省の色を浮かべたのだ。
そうだったそうだった。

顔に向かって投げ付けられた半纏を両手で持って、日番谷の本気の剣幕に慌てて謝りだしたっけ。
「ごめんね、ごめん、ごめんなさい!そうだよね、いくら可愛いからってシロちゃんはもう大きくなったもんね。…こんなの恥ずかしいよね…。」

必死になって謝って、最後は寂しげな笑顔と涙声に沈んでいく彼女になんだか日番谷の方が悪い気持ちになっていった。


だから結局最後はしょうがねぇなぁ、なんて言ってそのカワゆい半纏を雛森から奪い取ったのだった。

一度は投げ付けておきながら再び手を伸ばす自分を馬鹿だと心の隅で罵って、雛森お手製のそれに袖を通したのだ。



 
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