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□一周年記念話「雷と彼女」
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十番隊隊舎入口で空を見上げる雛森。
「うう…、なんかゴロゴロ鳴ってるし……。」
雨はまだ降り出したばかり。今なら小雨で、五番隊まで走って帰れなくはない。
けれど、さっきから耳に届く空からの轟音が気になる。それは雛森が、この場でためらっている間に次第に大きくなってきている。ずっと耳を峙(そばだ)てて聞いていたのだ、間違ない。
あぅ……、あたしのバカバカ。さっさと帰っちゃえばいいものを〜……。
確実に近付く雷。このままここにいれば必ず土砂降り+雷の攻撃に会うだろう。わかっている。わかっちゃいるのだが……。
足が踏み出せない。
もしも走っている途中で雷が鳴ったりしたら…、自分めがけて落ちてきたりしたら…、雛森桃が黒焦げになったりしたら……。
あらぬ想像をしてブルリと身を震わせた。
「むん!そんなこと起きっこないもん!女は度胸!雛森最強!」
いざ!
そう足を前に出した時、暗雲に走る稲妻が見えた。
「!!!!!!!!!!」
慌てて駆け戻る雛森。とても部下には見せられない情けない姿だ。
うう…。早く戻んなくちゃいけないのに…。
キツくなってきた雨に益々ションボリとうなだれた。
「阿呆。馬鹿桃。ずっと何やってんだお前は。」
「日、日番……、」
すぐ後ろから聞こえた声に振り向けば、眉間に皺を寄せた幼馴染みの彼がいた。
「さっさと俺んとこへ戻ってこい。ったく、霊圧がずっと動かねぇから、もしかしてと思ったら……。やっぱりかよ。」
呆れたような口調の幼馴染みに雛森は口を尖らせ、でも何も言い返せず、ただ恨めしげに小さな彼を見ることしか出来ない。
「だって……。」
「ほら…、来いよ。送って行ってやる。お前、傘も持ってねぇじゃねぇか。」
パン、といい音をさせて彼の身には少々大き過ぎる番傘を広げた。
「あ…、日番谷君………。」
口は悪いが優しい幼馴染みに雛森の胸が温かくなる。
「ほら、傘に入れ。」
「………うん!」
並んで傘に入る二人。
触れ合った腕がなんだか熱い気がする。
「あたしが傘を持つよ。」
「いい。俺が持つ。」
「あたしの方が背高いんだから、あたしが持つってば。」
「………喧嘩売ってんのか?」
さっきとはうってかわってご機嫌な雛森。
「さ、行こーーーー」
ピカ!!
ドーーーーン!!
いきなりの轟音と激しい光。
「んぎゃあああああ!!!」
「どわあ!」
突然の雷に叫び声をあげ、駆け出した雛森。
その彼女に突き飛ばされた日番谷。
ちゃっかり傘を奪われて……。
「おい!こらあ!」
不意打ちと火事場の馬鹿力を受けて尻餅を尽かされた。
いくら拳を振り上げて怒鳴ってみても傘を持ったまま、叫んで走る無我夢中な雛森には届かない。
みるみるうちに小さくなる彼女の背中。あのまま五番隊まで走って行くのだろう。
それはそれで一件落着か。
突き倒された日番谷は、まだ立ち上がることをせず、投げ出された足を胡座に変えて、片肘で頬杖ついて一人ごちた。
「あのやろう…、後で絶対に奢らせてやる。」
それはそれで楽しみ。
記念話なのにおそまつです……。