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□5000h感謝小説 「二人の記憶」
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「…シロちゃん……?」


雛森の小さな手が頼りなく日番谷を探り、髪を撫でる。


やはりというか当たり前というか、彼女を起こしてしまったらしい。
けれども雛森の声はまだどこか夢うつつで、このままじっとしていればまた直ぐに寝息をたてることだろう。


「…どうしたの?………怖い夢でもみた?」


答えない日番谷に、上手く呂律が回らないながらも問うてくる。

たぶん雛森は感付いている。己に向けられる感情には鈍いくせに、人が内に抱える思いに敏感なのは不思議だ。

自分の背中に回された日番谷の手が僅かに震えている、それだけで察しをつけてしまえるのはどうしてだろう?


雛森が囁くように話す度、日番谷の肩に彼女の息がかかる。とても温かい息がかかる。
彼女の温度が、今、自分達は生きていると実感させてくれて、日番谷の震えを益々大きいものにするのだ。


「…………何でもねぇ…。」

「…………うん。」


雛森は銀髪を撫でていた手を彼の背に回した。


冷たい………。


背中が冷えきっている。


「シロちゃん…、もっとこっちに来て。」


抱き締められている身体を引いて、日番谷を促す。
こんなに冷えていては眠れないだろう。

ただでさえ眠りの浅い彼だ、少しでも長く眠ってほしい。せめて自分が傍にいる時くらいは安眠を与えたい。


だって雛森もまた日番谷を護りたいと思っているのだから。


「ちゃんと布団に入って……ね?」


「…………ガキ扱い……すんな……。」


無理な態勢だけれど彼の背中に布団をまわし、早く温まれ、と掌でさする雛森。


きっと彼がみた怖い夢はあの時のこと。
長い年月を経ても日番谷同様、雛森にとっても忘れられない記憶だ。

けれど、それでいいと思う。忘れた方が楽になれるけれど忘れてはならないのだ。
二度と繰り返したくないからこそ忘れない。

あの出来事は辛いことばかりだったけれど、互いの大切さを思い知ることができた。
こうして温めあうようにもなれた。
彼の温度を確かめて、幸せを感じている自分がいる。それが少しくすぐったい。


むき出しにされた逞しい背に布団と温かな雛森の手が回され、まどろんでゆく日番谷。

「……シロちゃん、あったかい?」


「……………んー………。」


彼の呼吸が深いものへと変わってきた。日番谷が眠ってしまうまで、きっとそう時間はかからないだろう。

雛森はそっと口許を緩めて彼の背をゆっくりと擦り温め続ける。


「おやすみなさい、シロちゃん……。」


「……………。」



聞こえるのは深い息の音。



「今度はいい夢がみられますように………。」





優しい囁きと共に、小さなキスが彼の頬に落とされた。










 
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