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□四周年記念話「今さらだけど」
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*新婚日雛





夕焼けを背中に浴びながら、玄関の戸を開け家に上がり、桃が乱れた履き物を揃えて誰もいない家の奥に向かって「ただいま」を言う。

蜻蛉が描かれた風呂敷包みから空になった弁当箱を取り出して、俺にも出せと流しから叫ぶ。

桶に弁当箱を浸けてる間に俺達は死覇装から普段着に着替え、桃は夕飯の支度、俺は風呂の用意に取りかかった。



二人で飯を食って二人で風呂に入って二人で眠る。
桃といっしょになってまだ1ヶ月と経たないが、俺達の1日の終わりは大抵こんなんだ。


特に任務がなければ二人で出勤し、帰りも待ち合わせて二人で帰る。今は新婚だから周りも気を使って俺達を早く帰らせてくれているが、二人揃って定時退出なんて特権は、そう長く続かないと重々承知だ。だから今だけだと皆の好意に甘えさせてもらっている。





















長い長い片思いをし、長い長い交際期間を経て、俺達は長く長く家族でいようとしている。
俺と桃と婆ちゃんと、潤林安で家族のように暮らしていたけれど、今からは俺と桃とで新しい家族を作っていくんだ。
桃は相変わらず姉さん気取りで俺の世話をあれこれ焼くし、俺はいまいち抜けてる桃をからかいながらフォローする。こんな姉弟みたいな関係が昔は嫌だったけど、夫婦になると何故かしっくりくるから不思議だ。
大人になっちまえば俺と桃を姉弟と間違うやつはいなくなったし何より桃も俺も互いを姉弟だとは思っていない。だから今となっては幼い時のモヤモヤはどうだっていい。根っこのところを抑えておけば俺に怖いもんなんて何も無い。本当に欲しかったもんを手に入れたんだ、俺だけの優しい太陽。後はこいつが傷つかないよう、懐の奥に仕舞って守っていくだけだ。


桃が夕飯が出来たと俺を呼ぶ。
こっちも沸いたと返事する。


大事な嫁さんがばたばた動く音を耳にしながら立ち上がり、西の空に浮かんだ蜜柑色の夕陽を身体に浴びた。

太陽はいつでも皆に平等だ。
悪態ついても毛嫌いしても、隠した憧憬を見透かすように毎日毎朝顔を出す。

遠い日、ガキの俺を明日はきっと良いことあるさと慰めてくれる太陽を、恨むように睨みつけてた時期もあったけど、太陽はいつも知らん顔して俺を照らした。


「大嫌い」は「大好き」で、「離れろ」は「近づいて」
「泣くな」は「笑って」で、「一人でいい」は「二人がいい」


本音を飲み込んだ天の邪鬼の言うことを、あいつはことごとくひっくり返し、俺を益々熱くした。これ以上触れたら火傷すると思っていた太陽は、勇気をだして手をだしてみると焼かれるどころか意外にも優しく温かく俺を受け入れてくれた。時々ちりりと焼かれるけれど、それさえも心地よく、もう手放せないと、俺はあれからずっと懐に太陽を仕舞ったまま。

だから俺の胸はずっと温かい。







なかなか家に入って来ない俺を桃がまた呼ぶ。尻上がりなその声の抑揚に、もしかして捜しているのか?と思い、小さく笑った。

三回目を呼ばれる前に、今行くと返事して、空の蜜柑に背中を向ける。

桃と俺とで歩いていく。二人で新たな家を作っていく。そう思ったら胸の奥がまたジン、と温度を上げた。


ガキの頃は絵空事としか思えなかった言葉が胸の中にぽっかり浮かぶ。
















人生って素晴らしい









 
 

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