ss2
□180000h感謝小話「ルート変更」
1ページ/1ページ
ルート変更
*日雛社会人パロ
21時15分 上映の回なのになんでこんなに人が多いんだ?
若干不機嫌な俺の呟きに桃は気にせず、今日はシネマズデーだからだよ、と教えてくれた。
「あぁ…そう…。」
「みんな考えることは同じだねー。」
「お前知ってたの?」
「うん、もちろん。だから誘ったんだよ。」
「…んだよ…。」
月に二回の映画一本千円の日。それがこんなに賑わうとは知らなかった。もう一本遅らせたらもう少し空いていたかもな、と言ったら間髪入れずに、いっしょだよ、と素直な回答。
仕事帰りにデートをするのは3日に一度くらいか。恋人との短い夜の過ごし方としては食事して俺の部屋へ行くか食事して彼女の部屋へ行くかが専ら俺達の定番だ。
偶にテニスしたりゴルフに誘われたりもするけれど、間違いなく遅くなるし彼女は疲れてサッサと寝ちまうしで、俺としては平日の夜デートにはあまりお勧めでない。
腕に優しい温もりを抱えて眠るのは悪くないが、キスだけで終わる逢瀬はなんだか物足りなさが残ってしまう。いや、逢えるだけでいいんだけど、一緒に眠れるだけでいいんだけど。できればせっかくなんで二人で違う汗もかきたいな…なんてダメですか?
少しマンネリ化した二人の夜を嫌ってナイトシアターに誘ってくれたのはいいが混雑しているなら来たくはなかった。これが本音だ。
「もう、ちゃんと席も取れたんだしいいじゃない。それにこれ日番谷君も面白そうって言ったよね?」
「言ったけど…。」
こんなにほぼ満席な状態じゃ上映中にいちゃつくこともできねぇんだぞ。間違いなく帰宅は遅くなるしお前は即刻寝ちまうだろうし。
やっぱりいつもの定番コースが一番だ。
俺達のお決まりのルートはマンネリなんかじゃない、基本的な生活習慣の一部というんだ。
朝晩、歯を磨くように。毎日、風呂に入るように。三食飯を食べるように。桃と会った日は一緒に飯を食って抱き合う。
俺にとってはもうそれは自然な流れなんだ。新しさなんか俺は求めちゃいねぇ。
上映開始のブザーが鳴って場内が暗くなる。
「これ終わったら俺の部屋な。」
俺は隣りに座る彼女へそっと囁いて手を握った。
小さく笑って桃が俺の手を握り返してくれる。その控えめな力に指を絡めて強く握り直したら彼女の頭が肩に寄り添う。
いつもと違うルートを辿っても終着駅は変えられない。そこは彼女も異論はないようで安心する。
今夜はいつになく長い夜になるかもな。
その後、桃はもう二度と俺とナイトシアターに行かなくなった。
*がっつきすぎ…