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□150000h感謝小説「立ち入り禁止」
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とにかく黒崎はどこだろう?
あいつがいればこの女共を押しつけてやれるのに。
若干息切れしながらオレンジ頭の救いの主を探したら、少し離れた所で桃と談笑していた。卒業証書で肩をトントンやりながら、何やら二人でとっても楽しげだ。
てめぇらだけなに和やかな空気作ってんだと頭にきたが、黒崎のブレザーにはもう既に両袖がなく、下のカッターシャツも同じく両袖がなかった。
俺より早く追い剥ぎにやられた末路に同情するがなんで桃と話してる?
一個下の後輩桃が、卒業する俺達先輩に挨拶に来たことくらい分かっているが、俺はその時間を狙ってあいつに伝えたいことがある。
「黒崎!」
「おー、冬獅郎。」
「日番谷先輩、卒業おめでとうございまーす。」
だから二人して和やかに手ぇ振るなって、別次元か。 こっちは今必死なんだ、見て分かんだろ。
俺は今日、桃に言わなきゃならないことがある。今まで勇気が無くて結局ギリギリの告白だけど、上手くいけば俺の未来はバラ色だ。
ハイエナの群れを泳ぐようにして二人の元にたどり着いた時、黒崎がポイッと小さい何かを投げてよこした。あんまり小さいから俺は落っことしそうになって、
バタバタしちまった。腹のたつことに俺の慌てる様を見て黒崎がぎゃははと笑う、桃はなぜか赤い顔して俯いた。
「早くこいよ冬獅郎。俺が代わりに雛森の第二ボタンもらっといてやったから。何事も先手必勝だぜ、感謝しろ。」
「え?」
「嬉しいだろ?俺が代わりにお前の気持ちも雛森に伝えておいてやった、な。」
「え…う、うん……。」
隣りの桃へ黒崎が話を振れば、赤い顔の桃は益々赤くなってほんの僅か頷いた。
「ちょっと待てぇ!く、黒崎、お前、桃に何言ったぁ!?」
それになんで俺がボタンをもらうんだ?桃の卒業は来年だろうが!
「来年、雛森のボタンが誰かの手に渡ったらお前面白くないだろ?
「まぁ…そりゃ……。」
「だからだよ。今のうちに貰っとけ。」
「ナルホド。」
俺と黒崎の会話に、桃が引きつった笑顔を浮かべて軽く汗している。
こんなモロバレの会話を本人の前でしていることに俺は再び焦り、黒崎の隣りでちっこく立っている桃に向き直った。
「も、桃、黒崎から何を聞いた?」
「あ、えーと……その…いろいろ。」
ちら、と桃が横の黒崎を見上げ、ヤツが後を引き継いだ。
そのアイコンタクトが気に入らないが答えを知りたい俺は黙っとく。
「うーん…同じ大学に来てほしい、一人暮らしをするなら近くに部屋を借りて朝飯を作りに来てくれ、できればその流れで一生朝飯作ってほしい、だったかな?」
ちょっと前の記憶を手繰りながら、黒崎は最後にまた桃に向かって話しを振った。林檎状態の桃はまたしても律儀に頷いて、俺と目があうと下を向く。
この反応ってどうなんだ?イエスなのかノーなのか?迷惑がっていないってことはOKってことでいいんだろうか?でもそれを桃の口から聞いたわけじゃない。お節介な黒崎が桃に適当なことを言ってボタンを奪ったとも考えられないか?
って、俺まだ桃になんも言ってねぇぞ!
一世一代の大告白が代弁だなんて許せねー!
「黒崎!お前なんてことしてくれたぁ!」
「まずかったか?お前があんまり遅いから雛森が帰ろうとしてたんだぞ。だから俺が気を利かしてだな…。」
「気ぃ利かせるとこがズレてんだよ!桃には俺がちゃんと言おうと思ってたんだ、何が朝飯だ、このバカ!お前の言葉なんかナンセンスだ!」
「じゃあお前はなんて言うつもりだったんだよ?」
「え……それは……。」
食ってかかる俺に黒崎は冷めた目を向けて問いかけた。
桃もまっすぐな瞳で俺を見る。
俺はずっと好きだった藍色を見つめ返して深く深呼吸をした。
もう俺の想いは知られてて、とっても今更感があるけども、黒崎の伝言には決定的に足りない二文字がある。それを言わなきゃ俺と桃には終わりも始まりもない気がした。
「シロちゃん…もう無理しなくていいから、あたし十分だから。」
険しい顔つきをしていたのか、桃が気をまわして話を終えようとしてくれる。でも俺は首を横に振って桃の手を取った。
「黒崎、御苦労さん、俺達先に帰るわ。」
「へ?」
「シロちゃん?」
お節介でお人好しな黒崎、お前は本当にいいヤツだ。だがこっからは俺が自分で決めてやる。
ロックな制服を着た黒崎に別れを告げて、あわあわしている桃の手を引っ張り歩き出した。
生徒でごった返す正門を抜けて、いつも二人で歩いた通学路をゆっくり歩こう。
「シロちゃん良かったの?黒崎先輩を置いてきちゃって。」
「ああ、こっちの方が大事なことなんだ。」
そして言うんだ。今まで我慢してきたあの言葉を。