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□それぞれの
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雛森side










バタバタと五番隊の執務室に駆け込み、ピシャンと跳ね返りそうな勢いで戸を閉めた。別に誰かに追いかけられてるわけでも急いでいるわけでもないのだけれど爆発しそうな心臓を抱えてたら走らずにはいられなかった。


「雛森副隊長……どうかなされたのですか?」


「な、何もないよ!?ないない!気にしないで!あたしのことは無視して!」


三席があたしの勢いに驚いて声をかけてくれた。あたしはそれに何でもないのと笑いで誤魔化しそそくさと自分の席に座った。そして気を鎮めるために深呼吸を一つ。


びっくりした、嬉しかった、何て言えばいいんだろう、いまの気持ちにぴったりな言葉が見つからない。
あたしはもう一度長い息を吐き出した。

















つい今し方あたしは十番隊で日番谷君に好きだと言われた。あたしも同じ言葉を伝えた。
最初は楽しく話していたのがだんだんいつものお説教になり、お前は隙が多いだの男を甘く見ているだの、勝手に機嫌が悪くなってしまった日番谷君に、ほんの冗談で「妬いてるの?」と言ったら彼は驚いて、それからヤケクソのように「そうだ、妬いてる」と答えた。
まさかの返答に返す言葉を無くしたのはあたしで。てっきり馬鹿なこと言うなと怒られるんだと身構えてたのに日番谷君はあたしの意表をついた返事をくれたのだ。




『うそ……。』


『……嘘ならいいけどな、本当だ。』


『うそうそ……。』


『俺だってこれが嘘なら嬉しいよ…けど…事実だ。』


『うそうそうそ………。』


『……っ本当だっつってんだろうが!俺がお前に惚れてて悪いか!』


『うそー!!』


『うるさい!叫ぶな!』


『日番谷君があたし…を……?』


『何だよ…迷惑だって言ってもこればっかりは止めらんないからな。つうか俺も止めたいけどできねぇんだよ。お前みたいな女に惚れたくねぇのによ、ったく。』



とても告白しているとは思えないくらい不機嫌な様子で言われ、でも顔は真っ赤だった日番谷君。
最初は冗談かと半信半疑でいたあたしも彼の珍しい姿にだんだんドキドキしてきた。
だっていつの頃からか、あたしも日番谷君が好きだったんだもの。

てっきり容赦なく切り捨てられると思っていたのに、日番谷君の反応を見るようなあたしの戯れ言に彼は思いもよらない言葉で返してくれた。

本当に日番谷君が好きだった。気がついたら日番谷君を追っていた。


ずっと前を見て走り続けてきたような生き方をしてきたあたし。ふと立ち止まって己を見つめたら日番谷君の存在に随分助けられてることに気がついた。
彼があたしを見ていてくれると思っただけで強い自分になれる気がした。


「あのあの…!」


あたしに惚れてると言ってくれた日番谷君にあたしも想いの全てを伝えたくて口を開いたのだけど、言いたいことが有りすぎて、何から言うべきか定まらない。壊れたおもちゃみたいに口をパクパクさせるだけ。


「…返事………別にいいから。」


「え?」


「俺の気持ち、知っておいて欲しかっただけだから……。」


「……それだけでいいの?」


「なに?」


「日番谷君はあたしにも好きって言ってほしくはないの?」


「まぁ…そりゃ……でも、え?」


「あたしも日番谷君が大好きだよ。」


「お前………意味解って言ってるか?」


「ちゃんとわかってるよ。」


「俺はお前のこと女として惚れてんだぞ?」


「あたしも日番谷君のこと男の子として好きだよ。」


「子……。」


「あ、あ、あの、弟とかじゃなくて、あの…その…日番谷君とお付き合いしたいっていう意味の好きなの。」


「……本気か?」


眉間に皺が寄りまくっているけども、赤い顔している日番谷君にあたしは何度もこくこくと頷いた。暫く黙ったまま見つめあった後、先に口を開いたのは日番谷君で。


「じゃあ…今から俺達は恋人同士…でいいんだな…?」


「うん…たぶん…。」


「お互い…好きで…付き合いたいと思ってるから……それでいい…んだよな?お前勘違いしてねぇよな?」


「うん…!」


日番谷君の用心深い言い方が可笑しいけれど、今のあたしにそこをツッコむ余裕はない。ただ両思いなんだとわかったことが嬉しくて嬉しくてたまらない。 ついつい頬が緩んであたしは締まりの無い顔で笑ってしまった。


「ふ、変な顔で笑うなよ。」


「だって嬉しいんだもん、あたし達、今から恋人同士…なんだね…。」

「ああ……。」



自分自身に噛みしめるように言ったら日番谷君も静かに返事をしてくれた。
彼のその短い一言がゆっくりあたしの中に染み込んで胸の真ん中が熱くなった。



あたし今日のこと一生忘れないよ。


 
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