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□170000h感謝小説「となりのお兄ちゃん」
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今では彼のお母さんよりもあたし達の方が使用する頻度が高くなってしまった白い車。それにシロちゃんはあたしを乗っけて色んな所へ連れて行ってくれる。
大学の授業が終わったシロちゃんと夕方待ち合わせをして連れて行ってくれたのは、街の中心から少し外れた高台にあるお店だった。
重厚なレストランの扉をシロちゃんが開くとドラマに出てくるような落ち着いた店内にあたしは驚きの声を思わずあげてしまい慌てて口を押さえた。
行き慣れたファミレスとは違う、少し大人っぽいレストランの雰囲気に呑まれそう。
あたしはもう少しドレスアップしてくれば良かったと今更だけど後悔した。
高台にある洋館風のレストランはしっとりとした男女のカップル達が和やかにワイングラスを傾けている。薄暗い店内の照明と各テーブルに置かれたキャンドルの灯が夢の世界へ誘ってくれる。
店員さんに案内されて前を行くシロちゃんについていきながらあたしは硝子に映った自分の姿にがっくりした。
「はぁ……。」
「どうしたんだよ、いきなり溜息なんかついて。」
「だって…こんなちゃんとしたレストランだとは思わなかったから、あたしこんな格好で…。」
「んなこと気にすんな。」
「気になるよ…なんかあたしだけ浮いてるもん。」
席に着いて、料理が運ばれてくる間もあたしは今日の洋服のチョイスを間違えたことに気が晴れない。まさかこんなちゃんとしたレストランだったなんて。
一応この淡いグリーンのワンピはこの春買ったばかりのお気に入りだったりするのだけれど、それでもこの店の大人な雰囲気にはかなわない。
元がいいシロちゃんはラフなジャケット姿でもきちんと絵になってるし余計落ち込む。分不相応ってやつ?そう考えたらまた溜め息がでた。
「んなことねぇよ。その…服…すげぇ桃に似合ってる。」
「…ありがと……。」
珍しく女の子の服を誉めたシロちゃんは照れたのか赤い顔をしてグラスのお水をがぶ飲みした。
彼の意外な発言にちょっとびっくりしたあたしと目が合うと、またお水をがぶがぶ。
うん、せっかくシロちゃんがご馳走してくれるのに暗い顔してちゃもったい。とりあえず今日は大人気分を楽しもう。
あたしは気分を変えて窓の外に広がる街の景色を眺めた。
「ね、シロちゃん、このお店予約したの?」
「ああ、まぁな。」
「こんなお店知ってたんだ?」
「大学の友達に聞いたんだよ。女はこういう店が好きなんだろ?」
「まぁ、確かに憧れるけど……高そうだよ、大丈夫?」
「お前、俺がなんのためにバイトしてると思ってんだよ。」
「何のため?」
「…………秘密だ。」
「どうせ車買うためでしょ。」
「………違うっつうの。」
「ん?なに?」
「何でもねー。」
「やっぱり当たりだ。」
「…………。」
からかった口調で言うとシロちゃんは赤い顔のまま黙ってしまった。
どうやら図星?赤い顔で拗ねた表情をするシロちゃんに勝者の気分。じろりと睨まれて窓へと視線を逃がすと硝子に映ったシロちゃんも仏頂面でもっと可笑しくなった。
「全然面白くねぇぞ。」
「ごめんごめん。ね、シロちゃん、もしかしてこの席も予約?」
「いや、席の指定まではしてないけど。」
「ふぅん、でもここからだど凄く夜景が綺麗だよ。」
窓から見える街はまるで深海に散らばったゼリービーンズ。色んな色が煌めいてじっと見てると違う世界に吸い込まれそうになる。
窓に映る夢の世界をバックに二人でグラスで乾杯なんて確かにとてもロマンチックで憧れる。
「こんなところ恋人同士で来たらきっと最高だよね。」
「ぶ…っ!」
「わ!シロちゃん、ちょっと!」
二杯目のお水を飲んでいたシロちゃんが突然咽せて吹き出した。あたしは慌ててウェイターさんを呼んでオシボリを持って来て貰う。
「大丈夫だ、何ともない。」
「シロちゃんお水飲みすぎじゃない?お料理食べられないよ?」
「平気だ。お前が急に変なこと言うから横に入ったんだよ。」
「あたしなんか言ったっけ?」
「………ばかやろう。」
「む!理由も言わないでバカ呼ばわりしないでよ。」
「お待たせいたしました。」
読めない行動をとるシロちゃんに食ってかかった時、ちょうどコースのスープが運ばれてきて、あたし達の口喧嘩は未然に防がれた。