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□200000h記念感謝小説「リバースカード」
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窓枠に肘を置き、涼しい顔をして奴は言った。
俺の出方を楽しんでいるような薄ら笑い。余裕たっぷりの態度がいけ好かない。

俺は怒鳴りつけたいのを我慢して、よくある兄貴の返答を。



「お前、悪趣味だな。わざわざあんなの選ばなくてももっといいやつがいるだろ?」


「いや、桃ちゃん?だっけ、すげぇ可愛い。俺、ああいうタイプが好きなんだ。」


「目、おかしいんじゃないか?」


「小学校から両目とも1.0以下になったことない。」


「じゃあやっぱり悪趣味だ。あいつの本性を知ったらお前吐くぞ。」


「へぇ、ギャップ萌ができるな。」


「馬鹿か。おい、雀部が来たぞ。」


「ちぇ、なぁ、妹に俺のこと話しておいてくれよ。」


「気が向いたらな。」


「頼むな。」




誰が話すか。




俺は自分の席へ向かうヤツの背中に心の中で唾を吐いた。今日ほど雀部の到着を待った日はない。ちんたら歩かずにさっさと来いよと白髪混じりの初老の教師に心の中で悪態をついた。



桃がすげぇ可愛いのなんか知っている。お前にわざわざ言われるまでもない。
泣いた顔も怒った顔もみんなみんな桃は魅力的だ。けどそれを他人に知られることが腹立たしい。

桃は俺のだ。俺だけのものにしたいんだ。

なのにこの想いを明かすのは危険な賭にでるようなもの。一か八か、桃に伝えてハートのAが出るとは限らない。死神に酷似したジョーカーが出たならば俺は死ぬ。



教卓の前で雀部が何か喋っている。それをだるそうな目でさっきの長髪野郎が眺めている。俺の2つ隣りに座る長髪野郎がだんだんトランプゲームの対戦相手に見えてきた。
さあ、お前の番だと俺に手札を突き付けてニヤリと笑うインチキイカサマ賭博師だ。賭けるのは桃か俺の命か。


次にコイツが何か言ってきたら俺はどうする?


決まってる、今までと同じで妹の恋愛には興味の無い素振りで、しっかり悪い虫は追い払う。荒れ狂う嫉妬の炎は綺麗に隠し、なんだかんだと妹を思う兄を演じるだけだ。





でも、この胸騒ぎを悪い予感と言うんだろうか。
今度の兄貴役はかなりの難役。あいつのどこか見透かしたような眼差しが俺の本性を引っ張り出しそうで、怖い。

俺は無理矢理、賭のテーブルに着かされた素人ギャンブラーそのものだ。桃を渡さないなら俺の命をと、ふざけた手つきで野郎が上着の内側から拳銃を抜きたがっている。






 
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