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□200000h記念感謝小説「リバースカード」
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2012117days「ゆっくり歩こう」P7より












春、俺達兄妹三人は学年が一つ上がった。

やちるは今年から小学六年生、俺は高三、桃は高校一年生。
俺と桃は中学の時と同様、再び同じ学校へ通うことになった。


桃は高校生になったのを機にそれまでのお団子頭を解き髪を流した。制服が変わっただけなのに桃がなんだか大人びて見えてしまう。




4月からの新たな毎日が桃は楽しいらしく校内でたまに見かける表情はいつも笑顔がはじけている。仲のいい友人もできたみたいで順調な滑り出しに、密かに心配していた俺もひとまず胸を撫で下ろした。
でも、大人しい性格だけどきらきら眩しい桃を人は放っておいてはくれない。特に野郎共は目ざとい。
年頃と言えばそれまでだけど高校は中学よりも恋愛活動が活発だ。どいつもこいつも色気づきやがって、って俺もか。


桃が俺と同じ学校に入学して1ヶ月、俺の不安は的中した。

























「日番谷の妹って可愛いのな。」








五限目前の昼休み、同じクラスの、まだ顔を知ってる程度の野郎に話しかけられた。

窓の外の西グランドじゃ次の授業が体育なのか桃のクラスの女子達がぞろぞろと歩いている。もちろん桃もその集団の中に混じっている。新学期始めにある体力測定の持久走は桃の苦手分野で、さぞかし桃は嘆いているだろうと俺はグランドを眺めながらにやついていた時にこいつだ。気を抜いてる所にいきなりぴたりと銃口を向けられた気分だった。



「新入生歓迎式が終わった後、二人話してたろ?」


「…………。」


「最初、日番谷の彼女かと思ったよ。」


「………あほか。」



じっとりと不快感が胸の奥から湧き出す感覚。
なかなか照準が合わない銃口はそれでも俺の胸に向いている。

俺に歩み寄ってきた野郎は男のクセに髪を伸ばし、風に巻き上げられては鬱陶しそうに手で抑えた。切れ長の目はずっと俺を見ずにグランドへ注がれている。



この間の新歓から桃のことを聞いてくるヤツはこの男が初めてじゃない。
式次第通りに終わった後、体育館を出た所で俺と桃は少し立ち話をした。内容は大したことじゃない。今日は友達と寄り道するから遅くなると母さんに言っておいてほしいとかそんなこと。
自分でメールしとけと言って別れたから俺達は五分と喋っていないのに案外人はよく見てる。


「名前、なんていうんだ?」


「…………桃。」


「へぇ、名前まで可愛いや。」


「……可愛くなんかないさ、普通だ。」



早く五限目のチャイムが鳴ればいいのに。
この会話を一刻も早く終わらせたい。




「女の子らしくって可愛いよ。お前らって全然似てない兄妹だな。」


「………親同士が再婚したんだよ。」


「あぁ、だからか。人種が違うっぽいもんな。」


「………。」



脳天気な口調で無神経なことを言うやつに俺は不機嫌を露わにした。


名前も知らないクラスメートは俺の横に立ちグランドから目を離さない。俺は何とかこの会話を終わらせ桃からも視線を逸らせたくて口を開いた。



「もう五限始まるぞ。」


「まだチャイム鳴ってなくね?」


「雀部があそこ歩いてる。」



次は現文の雀部の授業だ。やつはチャイムと同時に授業を始めるから恐らく後1、2分で昼休み終了のチャイムがなるはず。早く自分の席へ戻れと差したつもりだったのだが、この男には全く通じない。


「なあ、今度妹紹介してくれよ。」
























銃口を向けるどころじゃない。
こいつは銃を構えるもう一方で俺の脳天めがけて鉄槌を降ろしやがった。



 
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