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□2012117days「ゆっくり歩こう」
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絶対たぬき寝入りだろう。




いつだって日番谷は熟睡してるように見えて実は目を閉じているだけなのだ。ましてや雛森は今大きな声で叫んだりもしたし。物音だけならず気配にまで敏感な日番谷が気づかないはずがない。

子供の頃は夜になると祖母と雛森の間で可愛い寝息をたててぐっすり寝ていたけれど死神になってから雛森が彼のまともな寝顔を見たのはけっして多くない。よく寝ていると思っても誰かが近づけばすぐ反応するからその眠りは浅いものなのだろう。
ましてや隊長となると心の底から安心して眠れる時などないのかもしれない。

遠い日の日番谷と思い比べれば仮眠とはいえ貴重な安息を邪魔する気にはなれなかった。


雛森は目を閉じている日番谷の胸をとんとんとそっと優しく叩いた。遠い遠い昔、幼い日番谷にしていた赤ん坊を寝かしつける仕草。


「よしよし、いっぱい眠ってね。」


「………。」


ピクリと眉間の皺が動いた気もしたけれど、気づかないふりをしてそっとそっと可愛い弟を寝かしつける。


寝てても難しい顔をしているけれど日番谷の顔はまだまだ子供だ。ふっくらした頬にへの字に結ばれた口、影を作るほどに長い睫、それなりに成長しても幼い頃の顔だちが容易に思いだせる。変わらぬ面差しの日番谷に雛森は嬉しくなってくすくす笑った。


「………。」


「シーロちゃん、可愛いねぇ。」


「………。」


姉の欲目というんだろうか?雛森に日番谷は誰よりも一番可愛く見える。
額にかかる銀髪をさらりと撫でて、そのまま何度も頭を撫でた。


こんなに可愛い日番谷だけど雛森の窮地には逞しい男の子に変わるのだ。あの時、大きな声で雛森を助けると叫び一直線に飛んで来てくれた。真っ直ぐな目をして彼が宙を駆けてきてくれた時、雛森はとても嬉しかったのだ。

いつも守ってあげなくちゃと思っていた男の子にいつの間にか守られるようになった。この物足りなさを人は寂しいというのか。日番谷はもうとっくに雛森の手を離れ、逆に助けられるようになってしまった。

でもどんなに日番谷が大きく強くなっても彼は雛森の幼なじみだ。互いがその絆を断たないかぎり切れることはないはず。

これからもっと外見が変わろうと地位が偉くなろうと自分達はいつでも桃とシロちゃんに戻れる。


「可愛いシロちゃん、大好きだよ。」


嘘寝の弟に愛情たっぷりのキスを額に贈った。大好きな可愛い可愛い日番谷をぎゅっと抱きしめて頬ずりもしたくなって首に腕を回したら、半眼の翡翠がぱちんと見えた。


「雛森…てめ…人が大人しくしてりゃ……。」


「おはよう日番谷くん。」


「おはようじゃねぇ!可愛いとか言うな!ついでに日番谷隊長だ、餓鬼扱いすんな!」


「きゃー!」




ガバッと起き上がるなり怒鳴る日番谷に雛森はきゃーきゃー笑いながら十番隊を飛びだした。
五番隊副隊長が笑いながら十番隊の廊下を走って、さぞ隊士達は何事かと思うだろう。人のことを一方的に子供扱いするが雛森だって大差ない。
何かと姉貴ぶってくれるけれど日番谷の望んでいるのはもっと違う関係だ。
いいかげんこのポジションから脱したいが、今の様子じゃまだまだらしい。日番谷は雛森よりもずっと大人なつもりなのだ、色んな方面で。



「…………寝たふりなんかすんじゃなかった………。」




ちっとも休憩にならなかったと日番谷は肩の凝りをほぐした。







 
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