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□2012117days「ゆっくり歩こう」
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1・寝ている隙に
*原作日雛(アニブリ355後)
「こんにちはー、お邪魔しまーす………っと、」
返事を待たずに執務室の戸を開ければ室内は無人だった。いつもなら日番谷か乱菊か、雛森を迎えてくれる十番隊のツートップが今日は不在だ。
しん、と静まり返った部屋はただただガラス越しに冬の日差しが差し込むばかりで、外に吹いている北風の冷たさを知らない春のような穏やかな空間だ。
「あの…お邪魔しまーす。」
そろりと足を踏み出して、雛森はもう一度声をあげて見たけれど返ってくる声はやはり無い。
「…………。」
仮にも隊の中心である部屋、中には重要機密に係わる書類だってあるだろうに無人にしていいんだろうか?盗まれて困る物は全て鍵付きの金庫や倉庫にしまってあるから多少留守にしてもいい?
「いやいや、それにしても不用心でしょ。」
言いつつ己は他隊の執務室に勝手に入っているのだが雛森はそのことには気づきもしない。 慣れって怖い。
「梅花観賞会の日取りが決まったから知らせに来たんだけど…乱菊さんの机の上に置いておけばいっか。」
毎年朽木家の全面協力により開かれる女性死神協会の梅見の会が今年も行われる。朽木邸の広い庭園に植えられた白梅や紅梅は本当に見事で、いつもより少しだけおめかししての宴を雛森はとても楽しみにしているのだ。
女性死神協会からの紙を手に雛森はとことこと乱菊の席まで歩いていって机の上にそれを置いた。
ここに置いておけば必ず乱菊の目につくだろう。風で飛んでいかないように文鎮を乗せることも忘れない。
「これでよし……っふわぁ!!」
用事を終えた雛森が帰ろうと身体を反転させ、驚きの声をあげた。
戸口からはまったく見えなかったソファーの上で日番谷が寝ていたのだ。入口側からは死角にあり日番谷が完全に霊圧を消していたせいで今の今まで分からなかった。決して彼がソファーに余裕で収まる身長だからではない。
「びっ………くりしたぁ……日番谷君いたんじゃない、返事してよね。」
ソファーで仰向けになる日番谷を腰に手をあてて覗き込む。でも勝手に入って勝手に驚いたくせにと文句を言うはずの人間はまだ目を閉じたままだ。
「……日番谷君…起きてる…よね?」
雛森はソファーで寝ている日番谷の横にストンとしゃがんで寝顔を眺めた。