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□三周年記念話「しょうがないなぁって」
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*原作未来日雛





よく女は面倒くさいって言うけれど、男の人だって十分面倒くさいと思うんだ。














山々が紅葉するには少し早い10月。
まだまだ昼間は暑いけれど、あとひと月もすれば炬燵がほしくなるしセーターを着ようって気にもなる、たぶん。だからあたしは去年、断念した彼の手編みセーターを今年こそ仕上げようと、押し入れから編みかけの生成色を引っ張り出した。今から編めばきっと寒くなる頃には着れるだろう、そう思って。




夕飯も終わり、後はお風呂に入って眠るだけの静かな時間。
一目一目編んでいく。最初感覚を忘れていた指は直ぐに一年前を思い出し、うん、順調順調。



「桃、喉渇いたな。」


傍で本を読んでた彼が顔を上げた。 生返事を返し、キリのいいところまで待ってと言ったら暫し大人しくなった彼はやがて自分で二人分のお茶を入れてきた。


「………お茶うけ、何かあったかな?」


いつもお茶だけの人が珍しい。
棚に戴いたカステラがあるよと言ったらそれもしばらくして二人分用意された。


「………それって俺の誕生日プレゼントか?」


「んー?そういうわけじゃないけど…。」


「………。」



誕生日プレゼントにしちゃ仕上がりはかなり早くなりそうだもん。12月生まれの彼の誕生日はこれとは別な物になるだろう。
うん、いい感じ。調子が出てきたみたい。
このスピードでいけばこのセーターはやっぱり彼の誕生日を待たずに仕上げられそう。


手を休めて編み目の確認をしたらじっとこっちを見てる碧の瞳に気がついた。


「…お茶…冷めちまうぞ。」




低い声でぽつりと。
そうしてころんと寝そべって、あたしの膝へ頭を乗せた。
これはもう作業妨害としか言いようがない。彼の銀髪頭が製作中のセーターを下敷きにしちゃってる。


もう、子供みたい。シロちゃんいったいいくつなの?


たまに出てくる彼の甘えん坊に不覚にも頬を緩めてしまい、膝枕で寝転んで再び本を読み始めた彼の髪をくしゃりとやった。



もしかしてかまって欲しかった?
そんな可愛いことされちゃ、ずっと見つめたくなるんだけれど。瞬きもしたくないくらいに。


あたしは編みかけのセーターを横に置いて彼を愛でることに専念した。
髪を梳いて頬を撫でて。お風呂あがりには耳掃除してあげるね。
いつも見てるよ。思ってる。

ちらりと本からこちらへ視線を移した彼がカパ、と下から口を開けてお菓子をおねだり。

はいはい食べさせろってことですね?
こんなにアピールしているのにまだ足りなさそうにするなんて。



欲張り坊やに苦笑して、あたしは彼のご希望通りに食べさせた。








 

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