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□雛祭りは立派なイベントです
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*平子さんの雛祭り
その日は朝から様子がヘンやった。隊舎に一歩入った時からいつもと空気が違とった。なんやろ?こう……そわそわした感じ?花とか飛んで背景パステルカラーな、そんな浮き足立った感じや。はっきり言うて俺はそんなん居心地悪い。
「はよ〜っす。」
「おはようございます平子隊長」
ボリボリ頭を掻きながら執務室へ入れば今日も俺の副官は可愛い………可愛…。
「なんやねんその格好はぁ!」
今日も愛らしい挨拶が返ってきたと思うたら、今朝の桃のいでたちを見てびっくらこいた。十二単て!!
「桃ぉ!お前どないしたんや!いったい朝から何のコスプレ!?何かの大会か!?」
「あ、はは…えっと、実は「おはようございます平子隊長。平子隊長は長く五番隊をお留守にされていたので御存知ないかと思われますので私が説明します。」
事務的な男の声。と思ったら突然現れた三席が、十二単を着て困った笑いを浮かべる桃との間に割り込んできた。くぃ、と眼鏡を上げる仕草がなんかムカつく。お前急に態度デカない?モブのくせに態度デカない?
「今日は何の日か御存知ですか?」
「えーっと今日は3月3日…雛祭りやな」
「そう、または?」
「………………桃の節句?」
「そう!今日は雛祭りで桃の節句!雛で桃!つまり雛森桃祭りなんですよ!」
「わーい!めでたーい!」
って喜ぶ思たか!
力んで叫ぶ三席を俺は思いっきり睨みつけた。
そうや、うっかり忘れとったけど、ここ五番隊は密かに雛森崇拝者の巣窟やった。俺がおった頃は藍染信者の巣窟やったのに、つくづく真面目な集団っちゅうのは怖いでほんま。ちゅうか俺の信者は居らんのか?
鼻息荒く息巻いた三席の後ろで桃があわあわ困っとる。大方部下に無理矢理着せられたんやろうな。
「す、すみません、平子隊長、直ぐ着替えますから、」
「あー!ダメですよ!雛森副隊長は今日1日その格好でいてくれないと!」
「でも仕事ができないっていうのは良くないよ」
「仕事なら平子隊長が全部やってくれますから!」
「おいいいいい!」
あまりの暴言に本気で三席を怒鳴ってやろうと思た。俺は自分でもかなりふざけたやつやと思とるけどお雛様コスはやりすぎやろ!お前らかなりぶっ飛んでんな!おまけにおまけにおまけに俺に仕事全部押しつけるて!
「こらぁ!勝手なこと抜かすな!俺は絶対仕事せぇへんで!」
「ええ!困ります!」
桃が慌てて叫んだが俺ははっ!と鼻で笑た。
「うるさい!人に仕事押しつける方が困ります、や!せやな、俺も今日1日御内裏コスして過ごすわ。どや?これで俺もお雛さんの仲間入りや。」
「あ、それはもう先約があるんで無理です。」
「は?先約?」
訳がわからんことを言う三席に聞き返した時、戸を開く音と共にテンション高めの女の声。
「おっはよーございまーす!今から撮影いいですかー?」
乱菊?
カメラ片手にどやどやと数人が狭い部屋に入ってきた。呆気にとられる俺を見つけて乱菊が挨拶も無くにっこり笑って状況説明。
「そう言えば平子隊長はお初でしたね。毎年3月3日は雛森とうちの隊長にお雛様になってもらってるんです。瀞霊廷通信の3月号表紙は毎年この二人なんですよ。さ、あんた達、撮影の用意して。照明と反射板、こっちからね。」
ぽっかーん、てしとる場合ちゃうけどしてしまう。
ふと何気なく戸口を見たら十番隊のガキが御内裏コスで立っとるし。なに顔赤らめとんねん。お前内心喜んでんねやろ。ムッツリスケベガキが。
俺はあれよあれよという間に隅っこに追いやられ、桃とガキんちょが二人並んだところで撮影開始や。
「すみません、平子隊長〜これが終わったら直ぐに脱ぎますから。」
「だめよ!この後総隊長に見せに行くんだから。」
「でも今日仕事が溜まってて…。」
「仕方ないわよ、平子隊長にやってもらいなさい。」
お前もか!
「いやそれはあまりにも………。」
「何を言っても無駄だぞ雛森。諦めろ。」
俺を心配して桃が言うてくれるけど、十番隊の二人がことごとく打ち消していく。実に見事なコンビネーションや。つうか冬獅郎のりのりなんやな。嬉しさ卍解か?くそぉ、まさか百年くらいでこんな堕落した護廷隊になっとるとは!
「来年は絶対に御内裏やったる…。」
恨みがましく呟いたら十番隊二人に聞こえたらしい。
「「絶対にだめ!」」
ステレオ機能かい!
もしかして毎年3月3日はこうなんか?せやったら来年からこの日は絶対有給休暇にしたる。壁にへばりつきながら、俺は固く決意した。