ss
□過去拍手 頭の上は空
college life
1ページ/7ページ
阿散井は親父さんの後を継ぐため建築科のある大学へと進学した。
朽木も地元の女子大へ元気に通っているらしい。
俺と雛森は………。
「日番谷君!ごめんね、待った?」
大学近くのカフェで雑誌を読んでた俺は名前を呼ばれて顔をあげた。
「いや、俺もさっき来たとこ。」
「そうなんだ、よかったぁ。」
少し弾んだ息を落ち着かせながら雛森桃は俺の向かいに腰掛ける。
「なに読んでるの?」
椅子の背にもたれてカラフルな表紙の雑誌を繰っていた俺。その表紙に書かれた雑誌名を見ようと彼女が首を傾ける。肩を少し越した髪がサラリと流れた。
「車関係の雑誌。新車情報とか見てた。」
「へぇ、男の子ってそういうの好きだよねー。」
肩から下げた大きな鞄を隣りに置いて、雛森が微笑む。
きっと分厚めの教科本が入っているのだろう。オフホワイトの布製鞄は重たそうな音をたてて雛森の隣りの椅子に陣どった。
俺と雛森は同じ大学に進んだ。けっして偶然ではない。さり気なく彼女の希望大学を友人から聞き出し受験した。
特に学びたいものがあるわけじゃない、将来の夢を聞かれたって何も答えられない俺だった。
高校の担任はもっと上の大学をと薦めてくれたけど、そこへいって俺はなにをするんだ?
それよりも、大学へいくよりも、やりたいことが俺にはあった。
「ご注文は何になさいますか?」
遅れてきた雛森に店員が注文をきく。
「ミックスジュースを。」
メニューを見ずに雛森が答える。
俺達はいつもこの店で待ち合わせる。だからメニューなんて今更なんだ。
最近いつも彼女はミックスジュースだ。今のところ、それがお気に入りらしい。ここのはバナナがたくさん入ってて美味しいだとか、ヨーグルトも少し入れてあるみたいだとか、ミックスジュース談義に入ると雛森は長い。大きな瞳をミックスジュースごときに輝かせる彼女は見ていて飽きることがない。俺が「もう、わかったから」と呆れたように流すとぷくりと頬を膨らませる。
それも楽しくてずっと見ていても飽きない。
特にやりたいことも夢もなかった俺。
ただ一つ、希望したのは彼女の近くにいることだった。