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□生きていけないかもしれない
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昼間見た光景が頭から離れない。








その日の昼休み、俺は見ず知らずの女に呼び出された。


ああ、また告白か…。


半ばゲンナリしながら体育館裏なんかにきてしまった。ああもう早く終わらせてほしい。こんな寒い所ではなく温かい教室に戻らせてください。

ピューッと渇いた音をたててこの冬一番の木枯らしが日番谷の首筋を撫でていく。


「あの、日番谷君、私ーーーー。」


「俺、あんたと付き合う気ないから。」


相手が言い終わるのも待ちきれなくて、さっさと返事を告げると背中を向けて教室へ。最後に女のぽかんとした顔がチラリと見えたが、気にすることなく向かい風の中を歩いていった。

悪いけど俺が望むのはただ一人、超絶天然鈍感娘の雛森桃だけなんです。彼女以外はいらないんです。

幼い頃から見てきた可愛い雛森。成長するにつれてドンドン綺麗になって、俺は片時も安心することができない。
ちょっとでも目を離せば野郎が近付いてくるから心配でならない。

早く帰らなければ。
雛森のいる教室に戻らなければならないんですよ先生。


きっと今頃、また無駄に眩しい笑顔を振りまいているに違いない。
ったく、もう勘弁してください。俺の身がいくつあってもたりません。最近また体重が減りました、あなたのせいですよ雛森サン。


ガラリと教室の戸を開けてクラスを見渡す。


「あれ?」


雛森がいない。

グルリと再度見渡してみても、やはりいないのだ。


「おー、冬獅郎。雛森なら美化委員の仕事で出ていったぜ。」


「黒崎……。」


窓際の手摺にもたれて友達の黒崎が片手をあげていた。


「雛森の姿が見えないと絶対にお前が心配すると思って行き先きいといた。中庭の花壇だとよ。」


「黒崎…、お前はやっぱりいい奴だ。前からうっすらとそう思ってた。」


「うっすらかよ。明らかいい人だろ!?」


「そういうことにしといてやるよ。じゃあな。」


雛森の行き先が分かれば昼休みの教室に用はない。


「え、中庭に行く気かよ?雛森は委員の仕事してるだけだぞ?」


「見に行くだけだ。俺の勝手だろ?」


教室を出る時、黒崎の恋人の井上とぶつかりそうになり、「悪い」と一言残して俺は中庭を目指した。



「…冬獅郎君、また桃ちゃん?」


「ああ…。」


「あんなに思われて桃ちゃんも幸せだねー」


「…俺が女なら、あんな執着心の強い男怖ぇよ。」


「でも桃ちゃんは何ともないみたいだよ?」


「…きっと慣れだな。」










黒崎と井上との間で、そんな会話がなされていることなど露ほども思わず俺は目的地をめざす。



気候が緩んできたら花のタネを撒くと以前雛森が言っていたことを思い出した。だからそれまでに花壇を整えておくのだと。

花が似合う彼女を頭に描けば、ついつい頬が緩んでしまう。すれ違う奴等が変な顔してみて来るから慌てて顔を引き締めた。


中庭へ近付いてきた時「きゃ!」という女の声がした。

雛森の声………?



中庭へ通じる渡り廊下

校舎の陰に隠れるように立つ男女

男の手は女の背中に

女の手は男の腕を握りしめて



正に抱き合った状態

そして次の瞬間、俺は凍り付いた。










雛森ーーーーーー










その女は間違いなく雛森だった。
見間違えるはずがない。



俺はよろよろと後退すると脱兎のごとく駆け出した。







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