短編1

□遅すぎたんだ
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今なら、あの時あいつが言ったことの意味がよく解る………。















朝、いつものように雛森が玄関の扉を開けると、幼馴染みが立っていた。


「あれ?シロちゃん。」

「よう。」

「どしたの?…あ………もしかして………。」

スポーツバッグを肩から下げて、雛森と目があうと、バツが悪そうに顔を逸らした。


日番谷冬獅郎と雛森桃は、同じ高校に通う幼馴染みだ。


日番谷は幼い時から頭も顔もよく、運動神経だって抜群で、女の子からの告白なんて日常茶飯事のことだった。
彼女だって、何人変わったか覚えてられないくらい、とっかえひっかえだ。





「また、別れたの?」

「また、は余計だ。馬鹿桃。」

「せめて半年は保たせようよ、シロちゃん。」

「面倒くせーし、メールしろだとか電話かけろだとか、うるせえんだよ。」

「いっつもそんなこと言ってるね。でも、恋人同士なら電話もメールもしたくなるもんだよ?何も無いなんて可哀相だよ。」


「女と付き合うと煩わしくてしょうがねぇよ。」


「じゃあ、なんで告白OKするの?」


「女がいれば、その間は誰も告ってこないからな。」

「そんな理由ーーーー!?」



雛森は驚いて隣りを歩く日番谷を見た。


「なんだよ。喚くな、耳が痛い。」


「シロちゃん、おかしいよ!女の子除けに女の子を使うなんて…。信じらんない!人の気持ちを何だと思ってんの?」


「説教なんか聞きたくねぇよ。第一に桃に説教する資格はないな。」

「な、なんでよ!?」


日番谷を睨み付けていたのが、逆に半眼で睨まれ、少し引けてしまう雛森。




「言うぞ。人の気持ちを平気で傷付けてんのはお前の方だ。」


「あたしがなんかした?」


「してる。この間、お前三年の奴に告られただろ。」


「…へ?あたし誰からも好きとか言われてないよ。」



まるで身に覚えがない。

日番谷は雛森のぽかんとしたマヌケ面をみて軽くため息をついた。


相変わらず鈍感な幼馴染みに呆れる。




「言われたんだよ。三年生に、お前は。放課後呼び出されて付き合ってほしいとか言われたんじゃないのか?」

「あ?………あー、あれは違うよ。委員会の買い物に付き合ってくれって言われただけだよ?」


「わざわざ呼び出して、か?」


「……たぶん。………。」


「決死の覚悟をした先輩にお前は、じゃあ駅前のホームセンターがいいですね。って返したらしいな。」


「だって、それってそういう意味だと思ったから……。やだ、どうしよう!」


真っ赤になって焦り出す雛森を見て笑い出す日番谷。



天然と有名な少女。
人が良くいつも穏やかな空気をまとう雛森は、本人に目立つ意識は皆無だが、密かにかなり人気がある。



だが超のつく程の鈍感娘な為、遠回しに気持ちを伝えるなど、まず雛森には通じない。
今回のがいい例だ。
いままで何人の男が涙を飲んできたか。




どうしよどうしよ、とオタオタする雛森を見た日番谷は、告白時の惚けた受け答えをする雛森を想像して噴出してしまった。


「シロちゃん!?もう。笑わないでよう〜。」



恥ずかしそうに上目使いで見てくる雛森に日番谷の眉間の皺もなくなってしまう。




「ま、いいんじゃね?どうせ断るんだろ?」

「う〜……でも………。」








雛森との登校はひさしぶりで、日番谷はいつもより気分が軽いことに気が付いた。



日番谷に彼女ができるまでは毎日、登下校は雛森とだった。



けれども初めて彼女ができた時、雛森が言ったのだ。



「じゃあ、明日からは登下校は別々だね。」
と。


「え?別に今まで通りでいいんじゃねえか。そこまで気を使わなくても…。」


「ダメだよ。彼氏が他の女の子といっしょに歩いてたりしたら彼女さんが傷付くじゃない。だから明日から別登校ね。シロちゃん、うちに迎えに来ちゃダメだよ。」


力説する雛森に押され、そんなもんかと日番谷は了解した。







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