短編1

□位置関係
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俺は二十歳で結婚した。相手は俺より一回りほど年上の女で彼女には八歳になる女の子がいた。

二人の結婚を親達は反対したが俺達は愛しあってて、とても幸せだった。彼女の連れ子である桃も最初は年若い俺を『お父さん』と呼ぶことに抵抗があったようだが直ぐに慣れてくれて愛らしい笑顔を向けてくれる。毎日が満たされていた。怖いくらいに。







しかしそんな幸福な日々は、僅か一年間で終わってしまったのだ。





最愛の彼女が死んでしまった。
交通事故だった。
仕事から帰宅途中に車に突っ込まれたのだ。


白いベッドに横たわる妻は生きているようで俺は現実が受け入れられない。
妻の葬式が終わっても俺は現実から逃げていた。




言葉もなく、ただ無意味に毎日を過ごす俺を現実に引き戻してくれたのは、義理の娘である桃だった。











「お父さん………。」

葬式から一ヵ月。
ある夜いつもどおり自室へ眠りにいった桃が枕を抱いて部屋に来た。

「なんだ?…どうした。」

「あの……。お父さん…。いっしょに寝てもいい?」


桃が俺にこんなことをいうのは初めてのことだ。




驚いてジッと桃の顔を見つめて思い出した。
生前、彼女は時々、娘の部屋へいき、いっしょに寝ていた。それは桃が雷を怖がるからだとか、風邪っぽいからだとかいう理由だった気がする。
俺と結婚する前は毎日彼女と桃は一つの布団で寝ていたらしいから、娘が淋しがらないようにそうしていたのだろう。
彼女は桃を本当に愛していた。俺が妬けるほどに大切にして、娘だけを生きがいにしていた。




今、目の前に立っている桃もそうだ。
仕事から帰った母親の首に縋る様に抱き付いて「おかえりなさい。」を言っていた。







ずっと無言で返事をしない俺を見つめる瞳に不安の影が現われ始める。
泣いていたのか目が赤い。睫毛が濡れてる。

「……お父さん…。いっしょに寝ていい………?」


再度問い掛けられた。

ためらいがちに見上げてくる瞳には徐々に不安に加えて悲しみが見てとれる。


悲しませてはいけない。彼女が自分の命よりも大切にしていた存在だ。


「いいよ。寒いだろ?早くはいれよ。」

俺自身、驚くほど優しい声が出た。







二人で布団に入ると、モゾモゾと桃がすり寄ってきた。そしてピッタリと俺にくっつく。


よく懐いてくれてるが、こんなに引っ付いてくることのなかった子に正直戸惑った。


「桃………?」


ギュッと引っ付いて俺の胸に顔を押し付けている桃。


「……お父さん、お母さんの匂いがする。」

顔を埋めたままポツリと言った。


俺は桃の小さな頭を強く優しく抱き締めて撫でてやる。

口の奥、喉の奥から何かが込み上げてくる。涙が溢れて溢れて止まらない。



「桃……っ!」



俺は小さな桃の頭を掻き抱き、桃は俺にしがみついて震えてた。

その夜は二人でいつまでも泣いて泣いて………。


涙なんて枯れ果てたと思ってたのに次から次へとでてくるんだ。







桃と俺。
俺達は同じなんだ。
この虚無感も喪失感も、悲しみも。



だったら二人で癒したい。彼女が大切にしていたもの全てを護りたい。




強く思った。


















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