短編1

□束の間の優越感
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今夜は十三隊合同の大宴会。


そんな日でも真面目な者は仕事をきっちりとやり終えてから。

そうでない者は
「仕事〜?んなもん明日隊長がぜ〜んぶやってくれるわよ〜!」
あっはっはー!と高笑い
真っ先に来て既に酒瓶を二、三本空けている。


「乱菊さん、日番谷隊長が可哀相じゃないっすか」


どっこいしょ、と今仕事を終えてやってきた恋次が向かい側に腰を降ろしながらいった。

護廷十三番隊内きっての美貌の持ち主・十番隊副隊長の松本乱菊はお猪口をくい、と空けると阿散井に新しいお猪口を渡し徳利から酒を注ぎ入れた。そして自分のにも。

ほっとけば朝まで飲み続ける乱菊だ。まだまだこの程度の酒量は序ノ口なのだろう。


「だ〜いじょうぶだって、書類は明日ちゃんと完成させるから」

隊長が。と付け加えてまたもや笑い。


「日番谷隊長に同情しますよ俺」


注いでもらった酒を飲みながら今も大量の書類と格闘しているであろう十番隊隊長を思いやる。ついでに己の上司も頭に浮かび、六番隊なら殺されてますよと呟く。


「なんや、もうええ具合にまわってんのかいな乱菊」
「阿散井君、ひさしぶり。」


三番隊の二人が到着したようだ。
宴が始まって二時間程たっている。席のあちこちで騒ぎたてる声、怒鳴り声が聞こえる。

「ギン、遅いじゃない。」
「イズルが終わるん待ってたんや。僕は優しい上司やからな。」
「……昼寝が長引いただけでしょ。」


疲れきった顔の吉良を見やり心の中で彼にも同情をよせながら阿散井が二人に席を作る。 この男はがさつに見えて実に気配りの出来る男なのだ。


ありがとうの言葉を返しながら市丸は乱菊の隣りに、吉良は阿散井の隣りに座った。





「あら〜、もうなくなっちゃった。」


空の徳利を最後の一滴まで振り入れ、給仕している隊員を探す。




「ちょっと〜こっちにもジャンジャンもってきて〜!」




はーい、と笑顔で振り向いたのは五番隊副隊長の雛森。


「ひ、雛森君、何やってるんだい?」


忙しく立ち働いているのは殆どが新人隊員で上位席官は皆どっしりと腰を落ち着けて飲んでいるというのに彼女は割烹着姿もかわいらしくクルクルと働いていた。
「えへへ、なんか人手が足りなかったみたいだから御手伝いしてるの。はい、お酒」


トントンと置くと、御ゆっくりの言葉とともに立とうとした。


「ちょっと待った!」

ガシッと乱菊が雛森の手を掴む


「ふわぁ!ら、乱菊さん、なにするんですか!」


「あんた全然飲んでないじゃない。ダメよ〜、雛森は飲まなきゃ。面白くないじゃない。」
「なんですか、それ。第一今日は絶対にお酒を口にするなって日番谷君にキツく言われてるんです。もし飲んだりしたらあとで怒られちゃいます。あたし」


雛森の酒癖はかなり悪い。それはかなり密かに有名で、知らないのは本人だけなのだ。

普段は純情可憐な少女なのに酒が入った途端、側にいる人間 男女問わず抱き付く、撫でまわす、キスする、あげくのはてに暑いとかいって着物を脱ごうとするのだ。

男性死神は大興奮の大喜び(乱菊含む)だが、彼女に想いを寄せる者にしてみればそんな姿を自分以外の男に見せてほしくないわけで。

いつもいつも日番谷が宴会の席では雛森のことを監視しているのを思い出して、吉良はクスリと笑った。


小さく笑った吉良に気付いた雛森が尋ねてくる。

「なあに?吉良君、何笑ってんの?教えてよー」
「ああ、いや、何でもないよ。うーんと そうだね、確かに雛森君はあんまり酔わない方がいいじゃない?まだいろいろと手伝うんでしょ?」
「吉良、余計なこと言うんじゃないわよ。さ、雛森、グッといっちゃって!」
「ふわ!乱菊さん、いれ過ぎですって。」
「いいからいいから。さすが雛森、いい呑みっぷりよ〜」


一杯だけですからね。と口をつけて…………………………………

















「…ひっく…。じ、じゃああたしは これで。」
「まだやで。まだ僕の酒を受けてくれてへんやんか。」
「え………。」


あ〜あ、と阿散井と吉良の憐れみの視線を受けながら仕方なさげに杯を受ける雛森。


その顔は既に真っ赤になっている。



見兼ねて吉良が助け船をだす。
「市丸隊長も松本さんもそのへんで勘弁してあげたらどうですか?雛森君、まだ用事があるみたいだし。」


吉良の言葉が終わらないうちにギンッ!と二人から鋭いまなざしが。
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