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□330000h感謝小話「悪い病気」
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悪い病気




*原作日雛




世界が蒼い。
きっと夜が明けたばかりなのだ。
雛森が目を開けると薄暗がりの中、目の前に日番谷の顔が見えた。その日番谷も濃い蒼に染まっている。壁や天井に目をやると、見慣れたものだが自分の部屋の景色ではなく、衣桁に掛けられた白羽織の白が妙に浮いて見えた。そうだ、昨夜は日番谷の部屋に泊まったのだ。思い出した。



夏の頃は朝の5時にはもう外は明るかったが、僅かひと月ほどで変わるものだ。まだ暗いといっても通常の起床時間とそう変わらないだろう。あと30分もすれば直に明るくなる。このまま起きてしまおうか、それとも二度寝を決め込むか。とりあえず喉が渇いたから水を飲みたい。そう思って雛森は日番谷を起こさぬようゆっくりと自分を閉じこめている腕の檻を外していった。でも雛森の身体に回された腕はなかなかに重くて寝起きの身体には少し辛い運動だ。おまけに肌と肌が汗で密着して滑りが悪い。うんしょよいしょ、なんて寝起きにしては可笑しな掛け声をかけながら雛森は何とか恋人の囲いから抜け出した。


「ふぅ……。」


だるい。
喉が渇いたから起き上がってはみたものの、なんとも言えない気だるさに直ぐには立ち上がれそうにない。それに身体を起こして気づいたがお腹が痛い。腰も痛い。股関節もなんだかちょっと。隣りで寝ている日番谷を見れば実に気持ちよさそうで、雛森はこっちの気も知らないで、と痛みの元凶を睨みつけてしまった。


「う〜……タオル…水…。」


身体がベタベタする。でもその前に水分補給をしたい。もそもそと這いつくばるようにして布団から脱出し何とか立ち上がると雛森は裸の身体に寝間着の腕だけを通し台所へ向かった。食卓の上に置きっぱなしになっている急須を掴み御茶を湯呑みに一杯。それを飲み干すと次は風呂場へ行く。汗を流すのだ。





「わ…なにこれ…。」



脱衣所に入り、肩から寝間着を落としたら正面の鏡に自分の姿が映っていた。日番谷の部屋の脱衣所には大きな鏡が据えてあり、風呂へ入る時は否応なく自らが目に入る。きっと日番谷も風呂へ入る時に自分の身体を観察するのかもしれない。傷を負った箇所を調べたり筋肉の付き方をみたり、姿見は一つあるととてもべんりだ。雛森も自分の部屋に置きたいと思っているが、ごちゃごちゃと小物の多い雛森の部屋は姿見を置くとますます乱雑になりそうで、今のところ鏡台の鏡だけで我慢している。
今日も勝手知ったる何とかで何気なく鏡に映った自分の身体に目をやったのだが、その異様さに驚いた。身体の至るところに赤い痕が点々と。それはそれは点々と。大小様々、濃淡も様々、特に首周りに集中しているが胸も腹も脇も虫刺されどころの話じゃない。気持ち悪いほどだ。もちろん原因と主犯は割れているから後でこってり叱らなければならないが、それにしても酷くて引いてしまった。


「…悪い病気みたい…。」



あまりの所業に少しの恐怖を覚える。夢中だったとか興が乗ったという言い訳をもしされたなら即却下だ。程度というものがあるだろう?常識的な加減を覚えてほしい。側に置いてある手鏡を使い、会わせ鏡にして後ろを見ればこれまた酷かった。背中に尻に、まさに余すところなく、だ。


「こ…こんなところまで。」



内腿にも打ち身かと思うほど大きな痕がある。こんな所、誰に見せるわけでもないから問題はないっちゃあ無い。でも着替える度に恥ずかしい思いはするだろう。夕べの行為を振り返れば納得の仕上がりだが、まさかこれほどとは。雛森は自分の身体をまじまじと見つめながら言葉を無くした。






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