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□90000h感謝小説『頭はんぶん』
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「日番谷君どうしたの?もしかして怒った?」
「………お前って…。」
「ち、違うんだよ、誤解しないで。あっち行けとかそういう意味じゃなくてちょっと顔が近いかなと思っただけで…。近いと困るかなって…、」
「………。」
日番谷が咄嗟に弛めた口元が雛森の角度からは見えなかった。それが二人にとって幸か不幸かわからないけれど雛森は明らかよろしくない方向に受け取った。
しまった、と顔を見せてくれなくなった日番谷の隣りでおろおろ。行き場のない手を彷徨わせてひたすらおろおろ。
「あ、あの…困るっていうのは嫌だからじゃなくて、日番谷君がそばにいるとなぜか心臓がドキドキして困るっていうわけで…。」
「………。」
どうしようどうしようと内心の焦りをくっきり表情に表して、なんとか日番谷の誤解を解こうとお団子の頭をゆらゆら揺らし身振り手振り必死になって雛森は自分の今の心情を説明した。
今まで頬をくっつけたって平気だった幼馴染みから突然拒絶の言葉を聞かされたら彼はきっと傷付く。自分だったら傷付くから彼もきっとそうだと思う。
十の羽織は背を向けたまままだ動かない。
「…日番谷く…ん…。」
日番谷がなかなかこっちを見てくれないのは、まるでこれ以上近付くなと言ったも同然の物言いをしてしまったからだ。日番谷のことが嫌だからそばによるなという意味に取られたんだ。
違うのに違うのに。
近くに来られるとどうしていいかわからなくなるから困るだけ。すぐ隣りが嬉しいのに胸が苦しくなるから堪えられないだけなのに。
こんな時、上手く気持ちを説明できればいいのだけれど、焦れば焦るほど支離滅裂なことしか言えない自分が情けない。わかってる。でも誤解から喧嘩なんて展開は絶対避けたい。
だから雛森の口は日番谷がこっちを向いてくれるまで止まらない。普通なら薄いベールに包んで投げる言葉も今の雛森にかかればむき出しの直球だ。
「あ、あのね、日番谷君のこと大大大好きなんだけど、こんなに息が苦しいのはあたし困るの。でもね…困ってるけどちゃんと大好きだから!」
「…………。」
声を張り上げて彼の背中に叫んでも銀色の頭は動かない。明後日を向いた日番谷の耳も首もとっくの昔に真っ赤に色付いているというのに余裕のない雛森にはそれが目に入らない。
胸の鼓動が何故激しくなるのかよく理由を考えもしないで謝るなんて相当きてる。
すぐに自覚できればいいのだけれど小さな頃から知っている幼馴染み相手になかなか恋愛の二文字は雛森の頭の中に浮かんでこないらしい。
「ご、ごめんねごめんね、怒んないで。日番谷君が嫌いとかじゃないから。全部あたしがおかしいの。日番谷君に近寄られるとおかしいなんておかしいけど本当におかしいの。顔が熱くなって心臓もバクバクしちゃうの。」
「っ……………、」
「いっしょにいたいんだよ。でも苦しいから、だからすごく困るの!」
「…………たち悪ぃー…。」
雛森に背中を向けたまま、はあぁと長いため息をついて肩を上下させた日番谷が口元だけでなく両手で顔全体を覆ってしまった。
「日番谷君……怒った?………やっぱり怒ったの……?」
雛森からはうなだれたように見える日番谷に、ねぇねぇと肩に手を置いた時、やっとゆっくり彼が振り向いてくれた。けれどその顔は今まで見たこともないくらい赤く、雛森は自分以上に真っ赤に熟れた日番谷を見て驚いた。