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□過去拍手・宴の帰り道
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「ほら、早く中に入れ。」
足取りのおぼつかない雛森に合わせての帰り道は途方もなく長かった。
しゃんとしているかと思えば些細なことで大笑いしたり、急に立ち止まったかと思えばしゃがみこんだりで、雛森の部屋の前に立った時は夜もかなり遅い時間になっていた。
俺に中へ促されると雛森は
「はあ〜い、日番谷隊長ー。」
なんてふざけて敬礼のポーズをとったりする。
無駄に可愛いことしないでほしい。
今日の雛森はいつもの死覇裝ではない。白地に桃色の花々が描かれた艶やかな着物姿だ。陽の光の元で見たらもっと綺麗だろうに。いやでも夜だからこそ昼間には感じられない色香が漂うのかもしれない。
雛森は俺が後ろから彼女の項を見つめているとも知らないで戸を開ける。
「ただいまあ!って誰もいないけど。」
俺の方を振り返って舌を出す。
言わなきゃわかんねぇか?
無駄に可愛いっつーの!
男にそんな顔と仕草を見せて、お前は何か魂胆があるのか?
無いんだろ?
馬鹿だもんな。
「あほなことやってないでさっさと入れ。明日も仕事だろうが。」
ポーカーフェイスは俺の得意技だ。
雛森にドキドキしていることは微塵も表に出さず彼女の背を押して部屋へ押し込んだ。
「日番谷君、上がってお茶でも飲んで行って。」
だから、簡単に男を部屋に入れるな、ての!
「いや、俺は帰る…、ちょ、押すな、雛森!」
「いいからいいから、ちょっとだけ、ね?」
小首を傾げるなぁ!可愛いっつってるだろうが、怒るぞ!
俺は強引に部屋へと入れられ仕方なく卓袱台の前に腰を降ろす。
久しぶりに入る雛森の部屋。彼女の甘い匂いで満たされている部屋。
なんだろう。特に香水もつけていないのに甘くていい匂いがする。
そんな雛森の匂いがたちこめた部屋の真ん中で、俺はいったいなにをすればいいのか分からない。辺りをキョロキョロ見渡したり、その辺の雑誌をパラパラめくったり。
「お茶お待たせ〜。」
いまだ陽気な雛森が盆に二つ湯飲みをのせて戻ってきた。程よい熱さのお茶は少し喉の渇きを覚えた身体に染み渡る。
「うまい。」
自然と出た言葉に雛森が嬉しそうに笑った。
「日番谷君のいいお嫁さんになれそう?」
「ぶふゎっ!」
「きゃー!」
「ななな!何を突然言うんだ、お茶、吹き出しちまったじゃねーか!」
「だって、さっき言ってたじゃない。あたしに白無垢着せてくれるって、嘘なの?」
悪戯っぽく笑う雛森の瞳に吸い込まれる。こいつ俺のことからかってやがる。
「………嘘じゃねーよ。」
負けじと俺も言ってやる。
言葉は冗談とも本気ともつかない危うい線上をフラフラして。
「やったあ!楽しみだねぇ、日番谷君とあたしといっしょに暮らすなんて。ね、おばあちゃんも呼んで三人でまた暮らそうよ。」
「………ちょっと待て。」
「なあに?ダメ?」
いや…、ダメって言うか、なんだかニュアンスが違うくねぇか?俺達の結婚というよりも、流魂街でいっしょに住んでいた頃の再現みたいに思ってねぇか?
「ん?違うの?」
違うだろ!大違いだよ!俺とお前で家族を作るんだぜ!?もしかして…。
「お前…相手が俺とだったら今のままで済むとか思ってねぇか?」
「……う」
阿散井達を始め周りの友人が変わっていくのを寂しがっていた雛森。俺とずっといれば遠い昔の幸せだった頃を維持できるとでも思ったのか?
つくづく残酷なやつ。
本気と冗談の境界線を行き来している俺達の言葉遊び。
心の底ではあわよくば、なんて考える俺。
それじゃあ、この際教えてやるか。
変わっていくものは止められないってことを。
雛森への気持ちはガキの頃とは比べ物にならない位大きく膨らんでいるってことを。
「雛森…、流魂街での再現はもう無理なんだぜ。」
「ふゃ…、きゃあ!」
俺は雛森の肩を押す。
「な、なに!?日番谷君、急に?!」
「雛森…、俺には望むものがある。だから変わりたいんだ。」
「望むもの……?」
「…雛森桃。お前が欲しい。」
「!」
一瞬にして真ん丸になった目がおかしくて笑っちまう。
「二人で変わるならきっと寂しくない。俺がそんなの打ち消してやるよ。」
「変わるって……。」
「俺のために白無垢着てくれるんだろ?。」
「あ…、」
「言質はさっきとったぜ。」
「…えええ!」
叫ぶ雛森に構わず押し倒した。