短編1

□心配性な彼
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五番隊執務室



五番隊三席は本日五回目のため息をついた。


虚討伐に五番隊が出動し、今日の昼過ぎ雛森副隊長はじめ全員が無事に戻ってきたことに安心したのはついさっきのこと。

留守を任せられていた三席は机仕事に追われながらもでていった隊員達の身を案じていたから、みんなが大した怪我もせずに帰ってきたことが嬉しかった。
ただ逃げ遅れた隊員を守って雛森が左腕に傷を負ったのが唯一の負傷者らしい負傷者だった。

彼女が自隊の隊員をかばって怪我することは時々あって、もう慣れた。
慣れていいことではないけれど、隊員達の無事を誰よりも喜ぶ副隊長の顔を見れば、一言言おうと吊り上げた眉もついつい下がってしまうのだ。

結局、言うのを諦めて「またですか…。」
とため息混じりに言うと「えへへ。」と恥ずかしそうに可愛く笑われて許してしまった。
これではイカン!副隊長を諫められる立場にあるのは己だけなのだから、もっとこう「今度からは気をつけてください。」的なことを言わなければと思うのだが、あの安心した幸せそうな笑顔に負けてつい
「良かったですね。」なんて声かけてたりする。
副隊長に甘いのは自分だけではないがそれでも副隊長補佐として進言しなくてはならないことはある。

隊員が傷付くのを恐れているのか、全ての虚を一手に引き受けるかのように最前線に飛び出していく。一体たおせばあちらの一体、と次から次へと立ち向かって行く。副隊長という心強い援護が来ると隊員達も余裕が生まれ、慌てず冷静に戦うことができた。
だが、雛森はそのため傷付くことが多い。
外見はか細い少女だがれっきとした副隊長。半端じゃなく強い。戦い慣れている。だがいくら強くても、こう自ら危険に飛び込んでいっては無傷でいるというのは無理な話だ。
もっと自分達を頼ってくれればいいのに、と思う。
雛森が自隊の隊員達を大切に思ってくれているのと同じくらい、我らも雛森を大事に思っているのだから。

だから今日こそは言う!あんまり無茶しないようにと、もっと自分達を頼ってくれるようにと。

意を決して顔あげた。今日という今日はもうあの可愛い笑顔には負けない!仮ににも俺は三席だ!振り向きざまに叫ぶ


「雛森副隊長!お話があります!」






しかし、今までいたはずの場所に彼女の姿はなく、隊舎からはしりさっていく遠くの後ろ姿が己の副隊長だと
気が付いた時には時すでに遅く、の状況で


「ちょっと四番隊へ行ってくるねー」


と手を降り駆け出していく自隊副官の後ろ姿が見えた。


また言えなかった…。


がっくりと肩が落ちるこの気持ち。持っていき場がなくて深々と息をついたのがこの日二度目のため息だった。
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