裏通り

□【帰想本能】
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「柊、先に案内していてくれ。鍵を取ってくる」
青年がベストのポケットから取り出した鍵を少年に渡しながら言う。
ちょうど分岐点。目の前の扉を開ける為の鍵。
「わかりました。部屋の前で待ってます」
「ああ。『  』の部屋に行ってくれ。今回はそこだ」
「わかりました」
部屋の名前が聞き取れなかった。そんなに部屋があるのだろうか。そんなに広い店には見えなかったのだけれど。
青年は右に進んで、少年は左に進んだ。
扉の先はただの通路であったらしく、左右に扉が並んでいる。扉と扉の間には絵が掛けられていた。そこに規則性はなく、立派な額縁の絵画があったと思えば、その次はどう見ても子供の落書きがあった。
そうして、一つの扉の前に行き着く。
青年はすぐに追いついた。皮のホルダーに入れられた鍵を持っている。
「……先に言っておきますが、ここには"絵"であるならば絵葉書や落書きまで取り揃えてあります」
ホルダーからボールペン程の大きさの鍵を引き抜いて鍵穴へと差し込む。ガチャリと音を起てて扉が開く。
「だからあなたが"絵"以外を求めるなら同じ通りにある『アンティーク屋』にでも行くことです。あそこはそれこそ柱時計からビー玉まで大抵のモノは揃ってますよ」
ちらりと、青年が肩越しに振り返り、こちらを見る。
部屋の中は見事に"絵"しか無かった。そして大きなキャンバス。種類で言えば全て風景画。
部屋の中を進み、奥へと向かう。奥に近づくにつれて部屋の温度が下がったようにも感じられた。
「あなたが見たかったのは、これでしょう……?」
青年が立ち止まったのは壁に掛けられた一枚の絵。題材は紅葉。
「ああ、時間もちょうどいい」
時計を見て、絵を示す。
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