裏通り

□【Rain Man】
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「どちらにしろ、雨が降ると騒がしくて敵わない」
「それは俺の所為か」
「いや、雨の所為だ。君があまりに近いと逆に静かだ」
いっそ静か過ぎる、そう呟いて、そこでアンティーク屋はRainy Takerを見る。正確にはRainy Takerが腰掛けている己の店の看板を。
「……いい加減降りたらどうだ」
「何故」
やはり悪びれた様子も無く、問う。
「それは仕事の代価に貰ったモノだ」
だから造った者に失礼だろう、とアンティーク屋はRainy Takerを見ずに言う。
「そしてこの店の看板であり、何より君が腰掛ける為の椅子じゃない」
回りくどい言い方にRainy Takerはハッと哂って紫煙を吐き出す。
「ただ一言俺が気に入らないからだと言えばいいだろうに」
鼻を鳴らしてアンティーク屋が応える。
「そう言ったら降りるのか?」
「さて、では中に入れてくれるか?」
「濡れ鼠は入れたくないな」
アンティーク屋の返事はあくまで素っ気ない。
そしてタオルを貸してくれるつもりは無いらしい。
「なら俺は此処で雨音を聴くだけだ」
「………」
物好きめと思っているのがよく理解る沈黙でアンティーク屋が応える。
「此処の雨は良い。何処に落ちても音に嫌味が無い。路もコンクリート敷きで無いしな。コンクリートに溜まった水滴が落ちる音程ビタビタと下品な音は無い。まったく、雨音と比べると何故こんなにも品がないのかと疑問に思うな」
視線は新聞の字面を追いながらRainy Takerが雨音について語る。
全く興味が無いといった口調ではあったが。
「……まあ、夏の雨は心地良い内に入るのだろうな。湿り気と冷たさを含んだ風が熱気を拭うことで涼を得られる」
此方もドコか他人事のように言う。
元の話題から僅かズレたその内容に、Rainy Takerはチラリとアンティーク屋を見上げたが、すぐに興味を失ったように新聞に視線が落ちる。
「雨ということに変わりはないのに不思議なことだ」
ポケットから取り出した煙草を咥えながらアンティーク屋が続ける。
マッチを擦る音が一瞬雨音を乱す。
「…………」
常ならすぐに消すマッチの火を、アンティーク屋がふと見つめた。
そしてその手は真っ直ぐに伸ばされ、軒から出たところで雨に触れて火は消えた。
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