裏通り
□【The Clock Time】
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青年を見送り、男は先ほどの青年と同じように柱時計を――そこに昔刻まれ、今では色が馴染みほとんど見えなくなった言葉を指でなぞる。
「Clocks tell the times.(時計は時刻を告げる)……か、彼は気づかなかったようだな」
独りごちて、そうして己の店の中を見渡す――正確には数ある品の中にあっても時を刻み続ける時計の数々を。
「告げるのが古き良き主人との思い出だけならいいんだけどね」
ため息に溶ける程に小さく呟くと、もう一度だけ店内を見回す。
古いモノで空間が構成されているせいか、その空気は微かに昏く重い。
それでもそれが常であるので、男は一度頷くと扉を開けて出て行く。
錠の落ちる音が響いた。
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