裏通り

□【The Clock Time】
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「さてと、」
立ち上がる動きに合わせて白衣の裾が風を含み流れる。
「そろそろ閉める」
「まだ昼だぞ」
「同じく真っ昼間から人の店に入り浸ってる人間が言うのかい?」
「うっ……」
悔しげに青年が呻く。唇まで噛んで、本当に悔しそうだ。
「………冗談だよ」
そんな様子に苦笑を漏らして男は青年の頭をごめんごめんと言いながら、ぽんぽんと叩く。さわるな!と頭を叩く手を払って睨みつける様子に更に苦笑を深くする。
「本業の時間だ。ちゃんと行かないと迷惑を被る人達がたくさんいてね」
「……………」
腕を組み、苦い顔で青年が押し黙る。
「………あんたの本業は医者かなにかか?」
「?――何故?」
長身な男の白衣を指差す。
「いつもその格好だからな」
男が己の白衣を摘み軽く広げてみせる。
「ああ………癖ということにでもしておいてくれ」
「どんな癖だ!」
「煩いなぁ。別にいいだろう」
めんどくさげに言うと、青年が一つ鼻を鳴らして入り口へ向かう。
「あんたと喋ってると疲れる!」
「じゃあ店に来なきゃいいのに」
白衣のポケットに両手を突っ込み、呟く。
「ああ?!」
キッと振り向く。見事な三白眼だ。
「なんでもない悪かった気にするな」
棒読みに返す。ついでに両手を肩の高さに上げて降参の意を示す。
「これだから癇癪持ち子は」
息吐くに合わせて小さく呟く。
「なあ」
不意に声が掛けられる。
今のが聞こえたのだろうか?しかし聞こえたならば、すぐにでも怒鳴って返してきそうなものだが……確認してから怒鳴るのだろうか?
そんなことを思いながら気のない声で返事を返す。
「なに?」
少々儀礼的な感じのする問い掛け。
「この柱時計おかしくないか?」
彼の危惧は外れたらしく、青年は入り口近くに置いてあるだいたい青年と同じ位の高さの柱時計を指差している。
「ああ、それ」
クス、と笑みを溢す。
「どうしておかしいと思う?」
「――――!」
その笑みにどこか挑発的なものを感じて。
「………時間が合ってない。それどころか、コレは、止まっている」
軽く柱時計を撫でる。
きちんと掃除されているのか指に埃が付くことはない。
と、何かが指に触れた。
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