裏通り

□【曇天 ノチ 雨天】
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曇天の空の下、というのはどうにも沈んだ空気になりがちなものだが、それは、色々と常識から懸け離れたところに位置する裏通りでも同じであったらしい。
路に人の姿は無く。けれど、代わりというように微かなざわめきが空間を埋めていく。
そんな通りを、騒がしくなりそうだと思いながら、何か行動を起こすわけでも無しにアンティーク屋は白衣のポケットに両手を突っ込んだ姿勢で『文殻』の店内から窓の外を眺めている。
「雨」
聴こえた単語に肩越しに声の主を見るが、言った本人はぼんやりとしたとも言える、常と変わらぬ表情で一枚の紙を透かし見ている。
「降るよ」
予想ではなく確定の物言いに、アンティーク屋は別段驚いた様子も無く問い掛ける。
「何か視えたのかい」
西の空は晴れているから、風向き如何によってはこれから晴れる可能性がある。
そのことを思考の片隅に留めて、視線を向ける。
どうせ相手は外など見ていない。
見やった先は、薄暗い店内。けれどそこだけ仄かに白く感じる。
白い紙束に埋もれるようになりながら、店の主である青年がどこかぼんやりとした動作で小首を傾げる。
「ん……よくわかんない」
「わからない?」
頷きを肯定と返して、文殻は摘むように
持っている和紙をひっくり返している。
「その和紙……易者が長年使っていた行灯を解いたモノ――だったよね」
永く主人の占う様を照らしてきた行灯は、けれど九十九を迎える前にその役目を終えた。故に魂を宿すことは無かったが、それでも覚えているものがあった。
「的中率、空模様に関しては高かったと記憶しているんだが」
その他のことに関しては五分といったところ。読み解く能力がある者が使えば十分使える。
「『わからない』というのは、それこそわからないな」
『視えない』ではなく『わからない』ということは、『視えてはいる』ということになる。
「黒い……影……?」
「影――」
自信が無いのか、首を傾げた状態で文殻は言葉を溢す。最後の言葉を拾ったアンティーク屋もまた首を傾げる。
「黒い影、ね」
何かに思い至ったように、アンティーク屋は言葉を口の中で転がす。
「?」
そんなアンティーク屋の長身を、文殻は不思議そうに見上げる。
「文殻……雨は降るんだよね?」
疑問では無く確認の調子でアンティーク屋は文殻に問い掛ける。
「ん。降る」
肯定を返した文殻にアンティーク屋はうんと頷き、ちょっと借りるよと文殻の手から和紙を受け取る。
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