裏通り

□【閑話】
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ヒラヒラと白い紙が舞う。
どさどさと何処かで紙の崩れる音がする。
緩やかに停滞した空気の上を紙飛行機が滑る。滑っていく。墜ちる。墜ちていく。
「君も懲りないね」
呆れた声が外、正確に言えば戸口から聞こえて、視線を向けてみれば見慣れた白衣と綺麗な長髪。
「あ…アンティーク屋……」
半ば本に埋もれた状態から声を掛ければ呆れたようにため息。
「文殻、君整理整頓て言葉知ってる?」
書庫のような、小さな図書館のような、そんな空間を見回して、そうして苦言を一つ。
「この間だって雪崩が起きて埋まって、面倒だからってそのまま寝ちゃって、たまたま儂が見に来たからいいようなものの、来なかったらどうするつもりだったんだい?」
店内に入ってきたアンティーク屋をぼんやりと見上げる。
「……来てくれないの?」
「…………君人の話し聞いてた?」
諦めたようにひとつ息吐いて足元の紙飛行機を拾い上げる。
「また紙飛行機にしてたのかい?いくら書き流しだからって、結構貴重なモノもあるんだよ?」
「……知らない」
正確に言えば、興味が無い。
本当は、アンティーク屋も同じコトなら知っている。
手元の紙を一枚取り上げて、一番簡単な紙飛行機に折り上げる。

スィと空気を滑って、それは魚に変わって、書棚の陰に滑っていった。
無造作にぱらぱらと、本のページを次々送っていく。
繰っていく端からひらひらと種々の蝶々が舞い上がる。
そうして和綴の本は紐を引けばスルとバラけて、はらはらと流れ出る。
「君位だよ。和綴の本をそんな簡単に解けるのは」
積み重なった本の山の合間から声が聞こえる。此方からは姿が見えないが、彼方からは見えているのだろうか。
「ありがと」
先ほどの返事に礼を返せば、苦笑の気配。
「褒めたつもりは無かったんだが」
山の陰から現れたアンティーク屋は、やはり苦笑している。
アンティーク屋を見上げながら、そうだったかなと首を傾げて、そういえばと思い出す。
「今日はどうしたの?」
新たに折った紙飛行機を滑らせれば、書き捨て文の中に脱文があったらしく、ぱらぱらと何かが零れていく。
「……今更だな」
微苦笑に嫌味なところは無く、それに安心する。
「まあ様子見もあったんだけど、用件としては頼みたいことがあってね」
そうしてアンティーク屋は何処から出したのか、小さな文箱を文殻の前の本の上に丁寧な手つきで置いた。
「この中には空誓文が入ってる。コレを本物にして欲しいんだ」
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