裏通り

□【Rain Man】
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白く煙る雨は、次第に雨足強く降り出した。
そんな時、遊画館が帰ったところでアンティーク屋になにがあるわけでも無く、ただやることも無く己のカップを弄んでいた。
だんだんと強くなる雨音は弱まる気はないらしい。
その分静かになった店内で独り、最早飲む気の起きない冷たくなった珈琲を捨てて新しく煎れ直そうかと考える。
片づけるのも新しく煎れ直すのも、動作としては大差無い。いっそ洗わなくていい分、新しく煎れ直す方が楽かも知れない。
けれどまた湯を沸かすのも面倒だ。もうインスタントにしてしまおうか。
そこまで考えて結局湯を沸かすことに変わりは無いと気づく。
どうにも雨の日は思考が空回る。
いや、それともただ鈍磨しただけか。
結局面倒臭くなってカップをその場に戻した。
木に磁器の当たる音が小さく響き雨音を乱す。
けれどそれはあまりにも小さな乱れで、すぐに雨音に流れた。
「何と言うか………」
呟いてチラリと窓を見る。
ちょうどこの位置からでは見えない。扉に窓でも付いていれば別だったろうが。
「開けるべきか………」
微かに眉を寄せ、諦めたように小さく息吐く。
そして大股で扉に近づいた。
カロンと鐘が鳴ってアンティーク屋が外を覗く。
「……人の店の看板尻に敷くの止めて貰えるか」
ちょうど店内からは窺えない位置に置かれた丸太看板の上に、腰掛けた影がある。
よく見ればそれは全身を黒衣に包んだ男だった。
「ちょうど良い高さなんでな」
悪びれた様子も無く、男は帽子の庇を傘代わりに煙草を吹かす。
「Rainy Taker」
それは男を意味する記号。
Rainy Takerはそこで初めてアンティーク屋を見上げる。
「君は遊画館に行ったんじゃないのか?」
Rainy Takerは答えずに、広げていた新聞を次に送る。
「今回そちらには用は無いな」
視線は新聞に向け、一言。
「そう……じゃあ別のか…」
ご愁傷さまと此処にはいない遊画館にお悔やみを述べる。
「まあ君の相手をするより幾分マシか。雨に来る客は皆面倒だが、君は格別だからな」
クッ…とそれを聞いたRainy Takerが哂う。
「ずいぶんな言われ様だな」
「君が来ると雨が降る」
外に視線を向けて、アンティーク屋が言葉を溢す。
「君は雨を連れて来るから」
そこに否を唱える言葉が応える。
「違うな。俺が行くから雨が降るんじゃない。雨が降るから俺は行くんだ」
同じじゃないかと呟けば、違うと返される。
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